第18話:満月前夜の準備
グレイ教授の特別セミナーまであと二日となった満月前夜、私は図書館で準備をしていた。
教授からは「特別なテキストは必要ない。ただし、開かれた心を持ってくること」という曖昧な指示しかもらっていないのである。
開かれた心とは一体何なのか、未だによくわからない。
アリアも同じ困惑を抱いているようで、一緒に関連書籍を調べていた。
「満月と哲学」「月光と直感力」「夜間思考の効用」など、怪しげなタイトルの本ばかりである。
「これらの本、本当に学問的なのでしょうか?」と私は疑問に思った。
「グレイ教授のことですから、きっと深い意味があるのでしょう」とアリアは答えた。
その時、マルクスがやってきた。
「君たち、まだあの特別セミナーに参加するつもりか?」
「ええ、とても興味深そうですから」と私は答えた。
マルクスは困った顔をした。
「実は先輩から聞いたのだが、グレイ教授の満月セミナーは相当危険らしい」
「危険?」
「詳しくは教えてくれなかったが、『精神的に不安定になる』『現実と幻想の区別がつかなくなる』といった話だ」
私とアリアは顔を見合わせた。確かに最近、不思議な現象に遭遇することが多い。もしかすると、それらは全て幻覚だったのだろうか。
「でも、真実を求めるには、多少のリスクは仕方ないのではないでしょうか」とアリアは言った。
「そうですね、これまでも様々な困難を乗り越えてきました」と私も同意した。
マルクスは溜息をついた。
「君たちの決意は固いようだな。ならば、せめて注意してくれ」
その夜、私は一人で部屋にいた。明日の特別セミナーについて考えていると、窓の外から不思議な音が聞こえてきた。まるで誰かが古代魔法語で何かを詠唱しているような音である。
窓を開けて外を見ると、魔導河の方向から淡い光が立ち上っている。月はまだ満月ではないが、確実に何かが起こっているようだった。
「明日を待たずに、何かが始まっているのか?」と私は呟いた。
音と光は数分間続いた後、突然止んだ。まるで何事もなかったかのように、夜は静寂に包まれる。
私は記憶増強薬の副作用で幻覚を見た経験があるため、これも幻覚かもしれないと思った。しかし、あの時とは違って頭ははっきりしている。
――― 翌朝、食堂でアリアと会った時、彼女も同じような体験をしていたことがわかった。
「昨夜、魔導河の方から光が見えませんでしたか?」とアリアが尋ねた。
「見えました。詠唱のような音も聞こえました」
我々は安堵した。少なくとも集団幻覚ではないようである。
その時、隣のテーブルから上級生の会話が聞こえてきた。
「昨夜の光、君も見たか?」
「ああ。毎年この時期になると現れるんだ」
「魔導河の年中行事みたいなものさ」
我々は驚いた。つまり、昨夜の現象は珍しいことではないということか。
私は上級生に話しかけた。
「すみません、魔導河の光について教えていただけませんか?」
上級生は苦笑いした。
「新入生か。君たちはまだ知らないんだな」
「何をですか?」
「この学院には表向きの授業と、裏の授業がある。グレイ教授の満月セミナーは、その入り口なんだ」と上級生は説明した。
私とアリアは顔を見合わせた。裏の授業?一体何のことだろうか。
「つまるところ...我々はとんでもない世界に足を踏み入れようとしているのかもしれないな」と私は呟いた。
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