自虐と屁理屈で武装した私が異世界転生してみたら、夢は甘く、真実は苦かった!~断じて、現実逃避しているわけではない~

不可思議はっぱ

第1章 断じて、現実逃避しているわけではない

第1話:本に埋もれた死と華麗なる転生

私は実に愚かな死に方をしたのである。


深夜三時、自身の部屋で「異世界転生最強魔法使い」全三十巻を一気読みしようという無謀極まりない計画を立てていたのだ。コーヒーを片手に、部屋の中央に築き上げた本の塔を眺めながら、私は胸を躍らせていた。


「さあ、今夜は徹夜で華麗なる異世界冒険を堪能するのである」


そう意気込んで第一巻を手に取ったのだが、思うに人間の集中力というものは実に気まぐれなものであろう。三巻目あたりで睡魔が襲ってきたのである。うとうとしながら読書を続けていたのだが、ついにバランスを崩してしまった。


積み上げた本の塔が雪崩のように崩れ落ち、私はその下敷きになってしまったのである。最後に見たのは「第四巻 魔法学院編開始!」という文字であった。


「これはまずい」と思ったのが、田中一郎という平凡な大学生としての最後の記憶である。


目を覚ますと、見知らぬ石造りの部屋にいた。窓から差し込む朝日は妙に色が違って見え、空の青さも微妙におかしい。「これは夢であろうか」と思い頬をつねってみたが、確かに痛む。


古びた手鏡を覗き込むと、そこには金髪碧眼の少年が映っていた。年の頃は十八歳くらいであろうか。


「思うに、これが巷で噂の異世界転生というやつなのか」と私は呟いた。鏡の中の少年も同じように口を動かしている。確かに、これは私自身なのか...それとも何かの悪戯なのか...。


部屋を見回すと、六畳一間ほどの広さで、質素だが清潔な調度品が置かれている。机の上には「エルディア魔法学院入学通知書」という羊皮紙があった。


「魔法学院!」私の胸は期待で躍った。


「これこそまさに異世界転生の醍醐味ではないか!」


通知書には細かい文字でびっしりと規則が書かれているのだが、私の目に飛び込んできたのは「魔法実技は年三回のみ実施」という文言であった。


「年三回...のみ?」


嫌な予感が頭をよぎったのだが、その時部屋の扉がノックされた。


「新入生の方ですね。同室のマルクス・ヴィルグルです」という声が聞こえる。


扉を開けると、痩せぎすで疲れ果てた表情の青年が立っていた。


「ようこそエルディア魔法学院へ」と彼は力なく微笑んだ。


「ところで、魔法に対してどんな期待をお持ちですか?」


「華麗なる魔法戦闘です!」と私は即答した。


マルクスの顔が一瞬ひきつった。


「...それなら、覚悟しておいた方がいいですね。この学院の現実を」


私は首をかしげた。「現実、ですか?」


「魔法学院の現実は」とマルクスは深い溜息をついた。


「数学です」


つまるところ...これが華麗なる私の異世界生活の始まりであった。とここでは述べておこう。




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