第4話 黙示録を携えた男

車を走らせる事数分エレベーターに着いた3人は工業区画にまで降りていた。


東雲重工ルーメリア支部

ルーメリアの工業区画の外部に位置し他の会社の数倍の敷地は軍基地を匂わせるような作りになっていた。

ゲートを潜りその中にある5階建てのビルに入る。

清潔に保たれた会社の中には作業服を来た人やスーツを着た人が走り回っている。

ルーシェに案内されながら向かった先は3階営業部会議室と書かれた部屋だった。

中に入るとそこにはスーツを着た老齢の男性が中央に座っている

男性の隣には2つの空席、木目調の机の対面にも1つ椅子が用意されている。

2人は何も言わずに男の隣に座ると俺も対面の席に座る

「……ふむ……君が彼女から先程連絡を受けたセイン・ブロウニングだね、年齢は23歳生まれと経歴は不詳と……この時代に置いてここまで隠されている人間というのも不思議なものだね」

対面の男は髭をいじりながらこちらを観察する様に見てくる。

その顔にはだいぶシワがあるが若々しく傷の斜めに入っていて肩幅広い。

その雰囲気と姿から元軍人であり元将官であると気づいた俺は

「それはたとえそれがケネディ中将でも言えません。互いに宣誓した者だからですよ。」

たとえ軍を抜けたとしても軍人は序列社会

俺は信頼できる上官にしか敬語は使わない

それに知った事を流すのは禁止だ特に俺みたいに半ば不名誉除隊の事は知らなくていいことが多すぎるだからこそあえて少し明かしておく

「ふむ……ならば問うまい、では仕事の話をしようか。うちとしてもテストパイロットと言うのは欲しいこの工場にいるもの達は動かす事は出来ても戦闘機動や曲芸なんて出来ないだからこそ君のような者は正直欲しいだがその様子だとしがらみは嫌いだろう?」

「はい、専属や企業所属にはなりたくないです。安定はするでしょうがその為に死にたくはありません、それにマヒロ様との約束もあります。その為にはフリーで居続ける必要があります。」

腹の探り合いは無しに正直に伝える、ケネディ中将は昔所属していた艦隊の提督だだからこそ信頼して腹を割って話せる

「そうか、ではこうしよう!うちの専属達を訓練する、新型機のメインテストを行うでどうだ?護衛はその都度料金の発生と言う形にすれば食いっぱぐれも無いだろう?」

「中々に好条件ですね、いいでしょう次いでに私の機体と輸送機の整備もお願いして大丈夫ですか?料金は……そうですね訓練時は1日10万の新型機は一機50万、怪我等の病院代とか弾薬代はそっち持ちこれでどうですか?」

好条件を突き出すならこちらも色よくだす。別に毎日する訳でもないならと言う打算もあるからだ。

「いいな、それで契約成立だ!」

その言葉と同時に手を差し出してきた

その手を握り返してから

「ありがとうございます。ま……いえこれで生きていけます」

心の中で中将の元でまた動ける喜びと顔は覚えてない事に対する少しの感情がまざる

「じゃあ早速だが……」


私たちは部屋を後にする

「彼……軍人だったんですね」

私は先程の事を思い出す、刺すような目線

常に整えられた生活空間と身だしなみ

自堕落とは言っていたが鍛え上げられた肉体

は正直興奮する。

「……たしかに……情事に及んでから彼数時間しか寝てないはずですよ私は死ぬ程眠いです

あれが軍人だって言うならかなりの練度と規律を持った部隊にいたはずです」

シェーナが隣でそんな事を言う

「……それでしたら何故辞めたのでしょうか?出会ってから少しか時間は経っていませんが多分あの人かなり優秀な部類ですよね?」

「まぁ……どうせ痴情のもつれです。あー言うタイプは大体そこから崩れていくんです間違いありません!」

こいつ……少し私情を挟みましたね

「しかし……あの短い時間で女性物の衣服なんかを簡単に準備したり私達のサイズを見ただけで判別したのはやはり気になりますね」

そこですか……

「何話してるんだ?」

声の主の方に振り返ればセインが居た

「話は終わったのですか?」

「ん?あぁ……これからテストパイロット共の操縦してる映像を確認するんだ……その後今試験評価している機体の慣熟訓練をする」

すぐ行動に移せるのは軍人だっからかと考えると彼の行動の速さに驚く

「貴様に聞きたいことがあった、何故女性物の衣服があるんだ?」

シェーナさん……ブレない寧ろ尊敬まである

「……知りたいか?」

少しドスの効いた声で返すセインが怖い

「いや、まぁいい、何故私たちのサイズがわかったのかも聞かないことにする」

「賢明だな」

いや賢明と言うより逃げたぞ……詰めろよそこはシェーナさん優秀な人だよね?

「まぁいいか……それより格納区画のモニタールームに行きたいんだが……案内してくれ」

「それならこっちだ、着いてきてくれ」

シェーナさんもしかしてこの人相手は素を見せてる?ねぇ……1度事に及んだからって貴方は彼氏でもなんでもないのですよ?

心の中で突っ込みつつも2人に着いていく


格納区画モニタールーム

娯楽室の様な雰囲気の空間の真ん中に大きなモニターがある。

着くまでの間に軍人だったのか?とかなぜ辞めたのかを聞かれたが適当にはぐらかす。

置いてあるデバイスを動かすと日付と機体名らしき名前の入ったデータが並ぶ

「……うちのテストパイロットのを見て何をするんですか?正直……」

「まぁ見ながら解説する静かに座っていろ」

「貴様ッ!またそんな態度を……」

やかましい声は無視しつつ最新データらしきものを映す

席に座り映像を見ながら2人に解説していく

「これから教える人間の操縦の癖とかな、あとは機体のコンセプトにあった操縦が出来ているか?対Gや機体の姿勢制御、ノズル操作だったりを見ているそうだな……分かりやすく見せるならここかな?」

そう言って彼女達に再生された動画をゆっくりにしアップさせる

機体の旋回性能試験映像だ、逆噴射で機体を止めそのまま旋回させている

「これは普通に作業用のWF(ワーカーフレーム)の動きだそしてそんな事を軍用機ですれば……」

続きを再生すると錐揉みしながら消えていった

「まぁ……これはおいおい説明するか……軍用機と民間機は全然違うんだよ」

「それはそうですが……何故あの様に?」

マヒロが聞いて来たので答える

「軍用機ってのはドッグファイトや機動戦が多い関係上偏向ノズルまぁスラスターとかブースターって言った方がわかりやすいかそれをミリ単位で動かして好きな動きをするんだよ。そして推力も高い。そんな中で自動制御された機体と同じ動きをしてみればこうなる。」

「なるほど……本で読んだマニュアル車とオートマ車の違い見たいなものですか?」

それを知っているなら話は早いな。

「そう言う事だま……」

「すみません!!セインさんはいるっすか?」

急にドアを開けやって来た若い男は俺を探していた

女性好みの童顔に小さな身体

オイルまみれの作業ツナギに顔は煤けている

整備か技術職か

唯一声と骨格で男性と判断できたがパッと見は女性か子供だ

「えぇっと……俺だが……君は?」

整備屋にはあまり強く出れない軍人の性だろう

「あぁっと?!自分はニットっす!ニット・リバーっす!セインさんの機体整備が終わったんで呼びに来たっす!」

その少年?は汚れまみれになりながらも屈託のない笑顔を向けられる

表情には出さないがこういう人間は苦手だ

「あぁ……わかった今から降りるわ、2人ともモニターの1枚をライブにしといてくれ、見比べればわかるさ」

モニタールームから出てそのまま下に降りる


私達は言われた通り1枚をライブ映像に切り替え画面が映るのをまつ

「あの男が何処までやるか見ものだな、精々うちの機体に泥を塗るのはやめて欲しいものだがな」

「まぁまぁあそこまで言うんです、期待しましょう?ねシェーナ?」

ついに呼び捨てにする事にした、この人の扱いがこの一日で雑になっていく。

私からの評価は顔がいい男に介抱してもらって抱いて貰った挙句文句まで云うわがままな人と言う事だ、優秀でバリキャリのイメージを一瞬で無くした。

人の信用を失う方法が簡単とは言ったが本当だとは思わなかった

モニターに映像が映る、観測カメラからの映像とサブでコックピット内の映像が映る

「へぇ〜こうなってるですねコックピットは」

正面の上下左右斜めの方向の映像が写っている

「私が細かい事は説明しますねマヒロ様」

淡々と説明してくれる

モニターは半天周囲モニターと呼ばれる旧時代のアニメを参考に前方及び側方の映像がリアルタイムで映るとのこと遅延無しで見れるようにしている為かなり高額な代物だと言う。

そして正面のモニターに映るのは機体情報HUDと呼ばれるものでAIが損傷率、残弾、各種システムやジェネレータ等の情報をリアルタイムで表示しているとの事だ。

これだけでもやはり自社開発と言うだけあってコストは高いらしい。

そして機体説明も行ってくれた

型式番号 SN-330 AX シュミット

第4世代AAとして開発した機体でオールレンジでの戦闘と全般任務に対応出来るよう防塵、防水性を高めているとの事

特に目玉となるのが拡張性で各種兵装を搭載可能とマニピュレーターの精度向上によりその場で武装を奪ったり出来るようになっていると言う。バックパックを追加する事により弾薬の量や武装積載なんかも出来る。

重力核エンジンと電磁式次元エンジンのふたつを搭載することによりレーザー、ビーム兵器等を扱いながらスペック上約10年近くは稼働出来る代物らしい、、

うんよくわからないです。私は工学系ではなく文学系なので

そうこうしている内にモニターの機体が動き始める。

「自由に動いていいんだな?」

「はい!もう無線繋げてあるんでモニタールームの方々にも聞こえてるっす!」

セインとニット君の声がそのまま聞こえる

「じゃあ多分一方的に話してるから気が向いたら聞いといてくれ、じゃあ始めるぞ!」

モニターに映る白と青の機体は動き始めた。

バーニアの光が線になって流星を描く

サブカメラが切り替わっていく

セインの機体が側転をする様に動きながら180度向きを変えるとそのままピタッと一瞬止まるりそのまま急加速する

「シェーナさんなんですかあの動きは?」

「分かりません、ですがあの男……なかなか……」

後ろの扉が開く

「ほう……2人ともここで見ていたのか」

ケネディさんがやって来た

この人も確か元軍人だったかな中将だったらしいから多分凄い人なんだろう

「2人ともこっちに来て彼を見ようか……」

私達はこの人に招かれてどこかへと向かう


機体をただ何時も通り動かす。

ターゲットドローンに向けて射撃して切り込む

そして急旋回ドローンの反応速度以上の動きで圧倒する

「セイン、聞こえるかケネディだ、次はドローンを戦闘モードでだす、被弾無しで50機だ行けるかな?」

挑戦的な口調で言われたがただ普段通り

「ケネディさんなら言うと思いましたよ、大丈夫です。」

ならば……と言うとそのままドローンの反応が現れる

その反応は50出てきた瞬間バーニアに火を入れて突撃する

射撃のタイミングを逃させるようにノズルを操作し上下左右に機体を振り続ける

Gの感覚が意識を戦闘に持っていく

一直線に真ん中を抜けながらドローンを正確に撃ち落とす

ライフルを1発1発大事に当てていく。

そのまま敵の後端に着くと90度急旋回をかける

肩部のスラスターで減速をかけ背中のノズルを細かく操作し向いた瞬間左手に持ったビームソードで切り伏せながら通り道のドローンは切り遠くは撃ち落とす。

ただの一工程をすぎる頃にはドローンは3機にまで減っていた

「こんなもんか……後は遠距離を……」

コックピット無いのレーダーからロックオンアラートが鳴り響く

「ケネディさん、これはなんですか?……プログラムにあり「セイン敵反応だ!!撤退しろ!!」」

その言葉で一瞬に脳が切り替わる

モニターのカメラをアップにして敵を確認する

継ぎ接ぎの機体が2機と第2世代AA プライマルだ

「おい!そこの青白の奴!!死にたくなかったら機体を置いてきなぁ!!へへっ」

下品な声に嫌悪感を覚えつつ

「断ると行ったらどうする?まさかそんなポンコツで勝てるとでも?」

「セイン!!挑発するな!!予備弾倉も無いんだぞ?手数が少なすぎるそれに最新機と君を失う訳には……」

たしかに最新機だ予備弾倉もないから後20発程度しかない

たが

「俺の名を聞いてもそんな態度で入れるかなぁ?こっちは黙示録(アポカリプス)のシーワンだぜぇ!?聞いた事あるだろう」

その言葉に反応する。

黙示録……それは2年前、ケンタウリ星間戦争と言う統合軍と革命軍の戦争にいた統合軍側のエースパイロット、顔も知られず表舞台から消えた謎の人物その名前をだすという事は

「……セイン、交戦を開始する!!」

機体を加速させつつ敵をロックオンし続ける

敵機も左右に振りながら回避運動をするがロックが外れない

「なぁんだ!こいつぅ!ロックが……外れ……えっ?」

すれ違いざまに敵を切り伏せる。

他の敵機が散開しつつこちらにロックオンしようと動き始めるが機先を制してライフルの残弾を継ぎ接ぎの機体に撃ち込む。

ロックしなくても基本的に当てられなかったら戦争では生きてけない。

この男は偽物、そう知ってるかのように向き直る

「へぇっ!くっくるなぁ!参った参った降参するもう手ぇ出せなえから!頼むよぉ!」

無線から聞こえるだらしない声を無視しながら追いかけ続けロックを継続した状態にする。

相手もまばらに撃ちながら牽制するが当たらない。


急に現れた来訪者……多分海賊だろうなと思いつつもセインの動きを凝視し続ける

「……なんですか……あの動き……」

「ここからは彼も隠してるから他言無用だぞ、私が殺されるからな」

ケネディがそういうと続けて

「あやつ……セイン・ブロウニングは元々私がいた部隊のAAパイロットだったのだよ、ケンタウリ戦争の終盤で理由は分からんが上官を射殺その後は除隊して姿を消したと聞いたが……ここに居るとはだ、そしてAA乗り時代の2つ名が……」

セインの機体が敵を捕まえそして切り伏せようとするそして

「てめぇ……まさか黙示録!本も……」

その言葉を最後に最後の機体も爆発する。

あの男も軍人だったんだろうか……

「そう……黙示録(アポカリプス)……勝利をもたらし、闘争を求め戦場かける常に血に飢えて相対すれば死を振りまく……ヨハネから取られて黙示録だったかな……恐ろしい男だよ。」

目の前のモニターの機体はまるで返り血を浴びたように黒く煤けた姿で動きを止めていた……

まるで何かを求める放浪者のように……

「黙示録……これが……」

噂だけなら知っていたが本物を見ると私は恐怖と悲しさが溢れてきた…………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る