欠陥品少女

京野 薫

キス 〜ある姉妹の場合〜

 キス。

 唇をくっつける。


 たったそれだけ。

 こんなたわいも無い行為を出来る時間まで、私は自分の部屋で子供のようにソワソワしている。

 もしも、魂と引き換えにたった一つだけ願いを叶えてやる、と言う悪魔が現れたなら私は迷わずこう願う。


 時間を早送り出来る力を下さい、と。


 他にももっと良いお願いはありそうだけど、今はひたすらにそれだけ。

 パパやママがもっと早く寝てくれたらこんな馬鹿馬鹿しい事を考えなくても良いのに。


 そう思いながらダラダラとゲームの画面をただ眺めていると、時間になった。

 心臓が早鐘のように鳴り、手足が微かに震える。


 私は彼女にラインを送ると、返事が来た。

 それを目の端で確認すると、すぐに立ち上がって隣の部屋へ。

 そしてノック。

 やがてドアが開く。


 この世界の誰よりも可愛い、私の妹……明日香あすか

 好きすぎて例える言葉が浮かばない。

 だから言葉の代わりに私はあなたにキスをする。

 だってあなたをどれだけ好きかなんて、言葉に出来ないならこうした方が早いでしょ?


 私は部屋に無言で入ると、彼女の両肩を軽く押してベッドサイドまで行くと、明日香の眼鏡を外して机の上に置いた。


 この時間が始まる前の彼女は決まって、視線を左右に泳がせる。

 そして切なそうな、悲しそうな顔をして俯く。


 でも、今日は何か言いたげだ。


「……どうしたの? 何かあった?」


「……お姉ちゃん。あのさ……もう……止めない?」


「ん? なんで?」


「だってさ、私たち姉妹だよ。私、彼氏がいるんだよ。来年、お姉ちゃん大学受験だよね。県外に……行くんだよね? だから……良い機会……」


「で?」


「……で? って……」


「大丈夫。あなたと彼氏の邪魔はしない。あと、大学は家の近くにする。明日香と離れたくないから。だから問題ないでしょ」


 引きつった表情を見せる明日香の頬を両手で挟むと、そのまま鼻の頭にキスをする。

 小さくて形のいいお鼻。

 わずかに血管が脈打つのが分かる。

 その鼓動に興奮しながら、キスしたまま唇で鼻の頭を包むと、わずかに歯を立てる。

 人に見せるけど、決して触らせない部分。

 ましてキスなんて……

 それが嫌が応にも興奮させる。


 そのまま明日香の頬にキスをしては、唇で頬を咥える。

 口の中にわずかに入る妹の頬。

 ツルツルの肌にわずかな産毛。

 そんな綺麗な肌に舌を這わせる。

 まずいな……もう興奮してしてきちゃったよ。


 私は口を離すと、かぶりつくように首元と鎖骨にしゃぶりつく。

 その途端「ブワッと」明日香の肌に鳥肌が立つのが分かった。

 レズでも無い、しかも実の姉にされている。

 彼氏もいるのに。

 そんな明日香の嫌悪と苦悩。

 それが現れているのだろう。


 これを待ってた……


 私はゾクゾクと喜びがわき上がるのを感じ、彼女をギュッと抱きしめると音を立てて首元に吸い付いた。

 唇で、舌で、歯で。

 彼女の嫌悪に満ちているであろう、心の中まで汚していく。

 もっと……もっと怖がって、嫌がって。

 そうなればなるほど……あなたは私を忘れない。


 あなたはいつか私から離れていく。

 それはどうしようも無い。

 だったら、それまでにあなたの心に消えない傷を刻む。

 一生消えない……夜中に夢に見て、目が覚めて恐怖と嫌悪で泣いてしまうくらいに深い傷をつける。

 あんな冴えない男なんかじゃ、どうにも出来ないくらいの……


「……どうしたの? 鳥肌立ってるじゃん。そんなに嫌?」


「……そう言ったって、止めないんでしょ」


「お利口さんだね。分かってるじゃん。っていうか、そんなに嫌なら逃げたら? 私を突き飛ばして」


 からかうようにそう言うと、明日香はギュッと唇を引き結んで横を向く。


「肩の所、痕ついちゃったね」


 そう言うと、私は彼女をベッドに押し倒す。


「……目……閉じてて」


 明日香はハッとした表情をすると慌てて目を閉じる。

 それを確認すると、私は閉じたまぶたの上にそっと唇をつけた。

 軽く息を吹きかけ、唇でまつげの感触や震える瞳の動きを感じる。


 このまま……この子の目を噛んだらどうなるかな……

 そしたら、この子は目が見えなくなる。

 そしたら、彼氏もこの子から離れる。

 パパやママも離れるかな?

 そしたら私だけの物になるだろうか?


 チラッと浮かんだそんな言葉を心の中で思いっきり払いのける。

 今は私だけのあなた。

 それでいい。


 血が繋がっている。

 そんなくだらない事のために、私はあなたと付き合えない。

 あなただって……好きなんだよね? 私が。

 なのに……姉妹だから?

 それがどうしたの?

 たかが同じ両親から生まれたってだけじゃん。

 馬鹿面さらしてる男達よりも私の方が……


「ね? 口……開けて」


 そう言うと明日香はためらった。


「今度……彼と……約束してるから」


「あ、そ。でも私がしたいの」


 そう言うと明日香の唇に吸い付いた。

 無理矢理舌を割り込ませて、彼女の舌の生暖かい感触を感じる。

 彼女の熱い息が口の中に入ってきて、目の前がクラクラしてきた。

 嬉しくて死んじゃいそう。


 私は自分の舌先で明日香の口の中を触る。

 そして自分の唾液を流し込む。

 顔を背けて出そうとするけど、無理矢理唇をつけて逃げられないようにした。

 そのついでに下唇のぷりん、とした感触を唇で挟みながら感じる。

 すると、頬に涙が伝ってきているのが分かったので、そのまま唇を這わせてその涙を舐め取る。


 すすり泣きの声を感じながら、明日香の唇に軽くキスをする。


「あの子より……私の方が気持ちいいでしょ?」


「……知らない」


 可哀想な明日香。

 私なんかが姉になって。


 でも……しかたないんだよ。

 だって、好きなんだもん。

 あなたが小学生の頃から好きだった。

 だからあなたにとって最高のお姉さんになったんだよ。

 勉強も運動も、見た目だって。


 なのに……姉妹だから付き合えない、結婚できないって……理不尽だ。

 神様が許してくれないなら、もういい。

 とことん汚してやる。

 私もあなたも。

 神様が目を背けて、私たちから興味を失うまで汚し尽くしてやる。

 パパやママが、あなたが褒めてくれたこの唇で。

 私のキスが無かったら生きていけないくらいに汚してやる。

 その後は……知らない。


「大丈夫だよ……明日香。私ね、あなたにとって最高の彼女に、ううん……奥さんになるから。あなたを泣きたくなるくらい気持ち良くしてあげるね」


「……へ?」


 顔を強ばらせている明日香に微笑みかけると、無言でシャツを掴むと一気にまくり上げた。


「え!? ちょ……そこは……駄目って!」


 私は無言で彼女のむき出しになった胸に口をつけた。


「下着……つけてないんだ。じゃああなたも待ってたんだね」


「違……う!」


 私は小ぶりな双丘にキスをすると、目を開けてわずかに汗ばんでキラキラしている肌を見る。汗の滑りと鳥肌、そして鼻腔に飛び込む汗の匂いが艶めかしい。


「好き……好き……」


 うわごとのように繰り返しながら、目の前の妹の肌の艶めかしさと胸の柔らかさ、温もりに浸る。

 唇の先で肌の滑りを感じる。

 舌を這わせて彼女の肌を汚す。

 そして……噛みつく。

 消えない後を残すため。

 友達や彼氏にこの肌を絶対に見せられないようにするため。


「噛むの……やめて!」


「ん? ゴメンね、良く聞こえない」


 そう言いながら私は夢中になって這わせ、舐めて……噛む。

 時々、膨らんだ突起を唇や頬でじらすようにさすると、聞こえてくる切なそうな声や吐息。

 この子の全てが私を狂わせる。


「……ねえ、お姉ちゃん……もう……やめて。き……きちゃい……そう」


「いいよ、大丈夫。お姉ちゃんに任せて」


「お願い……もう止めてって……本当に!」


 聞こえないふりして私は唇や頬で、突起をもてあそぶ。


「明日香って……ホントにここ、弱いよね。……だから、好き」


 そう言った直後、明日香の泣き声のような悲鳴のような声が聞こえた。

 彼女は身体を軽く逸らすと痙攣し……私に抱きついてきた。


「お姉……ちゃん! お姉……」


 ●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇


 お互いの汗と恥ずかしい色んなのが混じった匂い。

 ムッとする籠もった様な熱気。

 湿ったシーツ。


 そんなこんなに包まれた部屋のベッドの端に座ったまま、私はシクシク泣いていた。


「ゴメンね……またやっちゃった……ゴメン」


 泣きじゃくりながらそう繰り返す私の背中に明日香の身体の温もりが伝わってきた。

 背中から抱きしめてくれている。


「大丈夫。大丈夫だからね……お姉ちゃん」


「ダメな……お姉ちゃん……だよね? 頑張ろうとしたのに……彼氏とか出来たから……」


「……ゴメンね」


 背中からポツリと聞こえる妹の声に私は首を振る。


「私……やっぱり大学、県外に行く……あなた無しで……頑張る」


 そう言うとクスクスと笑い声が聞こえた。


「お姉ちゃん、出来るの? 無理だから悩んでるんでしょ? ……ね、こっち向いて」


 涙でビッショリの顔で振り向くと、ニッコリと微笑んだ明日香が私にキスをした。


「明日の事は明日の私たちがどうにかするよ。今は……しちゃったでしょ?」


 そう言うと明日香はまた私にキスをする。

 身体の奥がジクリと疼くのを感じる。


「……ね……お姉ちゃん。今夜は……私、お姉ちゃんの物だよ」


 ハッと明日香の顔を見ると、彼女は目を潤ませたまま何かを期待するように私をじっと見ていた。

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