マーキング ~わたしの小さないたずら~

 私は窓の外の夜空を見あげました。

 月は見えるけどどんよりした雲に覆われてぼやけた月影。

 名古屋特有のむしむしした暑さも相まって、なんとも風情からは程遠い有様です。


 でも、風情の無い空と反対に私の心の中は弾んでいます。

 なぜなら……


 リビングに目を向けると、ソファに寝転がっている彼。

 付き合って二月になる、友達からの紹介で知り合った彼。

 すぐに意気投合したせいか、もう何年も一緒に居るような気持ちにさえなります。


 そんな彼はソファで気持ち良さそうな寝息を立ててお休み中。

 

 初めて我が家に来て、お互いに気分も高揚していたのでしょう。

 一緒にお酒を飲んだのですが、彼はいささか飲みすぎてしまったようで。

 お酒は弱い、とおっしゃってたのに無理するから……

 

 でも、そんな彼もまた可愛いな、と思うのは惚れた弱みと言うものでしょうか。


 私は寝ている彼の隣に正座すると、そっと寝顔を覗き込みます。

 普段はきりっとしてて知性溢れる彼。

 そんな方の無防備なお顔を見れるのは彼女の役得かもですね。

 でも……私の中には別の気持ちも。


 ……付き合って二ヶ月……ですよね。


 私たちはまだキスもしていません。

 一般の平均的な流れは分かりませんが、もう少し進んでも……でも、女子からそんなはしたない事を言うわけにも行きませんし……

 今日だって、お家にきてくださると言うので、頑張って選んだ可愛い下着……履いてたのに。


 そんな事を考えていると、ついつい唇もつん、と尖ってしまいます。

 そして思わず彼の頬を軽くつねりながら耳に口を近づけて、小声でポツリと「ばか」と言いました。


 すると、寝ている彼の表情が僅かにゆがみ「う……んん」と声が漏れてきました。

 それを見た時、私の中にフッと……まさに魔が差したかのように、何かが降りてきました。


 気付かなければ……いいよね。

 一回くらい……


 私は、彼の耳に唇を近づけるとそっと耳たぶをくわえました。

 すると、また彼の声が聞こえたので、ドキドキしながら唇を離し慌てて座りなおした私の目に……ある物が飛び込んできました。


 彼の……下腹部。

 ズボンの……腰の真ん中辺りが、仄かに膨らんで……


 え?

 私は心臓が大きく高鳴っているのを感じました。

 これ……もしかして。


 私は膨らんでいる部分から目を逸らす事が出来ませんでした。

 これ……あれ……ですよね?

 友達が彼氏との夜の事を聞かせてくれた時に、出てくる……あれ。

 そして、友達はその度に……「あること」をして……


 私は頭がくらくらするのを感じました。

 そう。

 これは……私のせいじゃない。

 この暑さのせい……

 二ヶ月だもん。付き合って。もう二ヶ月なんだから……

 それに、こんなに膨らんでたらさぞや苦しいでしょう。


 私はそっとファスナーを下げると、その隙間から下着が現れましたがさっきよりもさらに膨らんでいます。

 

 男の方のって……こんなに。

 

 私は呆然としていました。

 もし彼が目を覚ましたら……もう言い逃れできません。

 でも、なぜかその恐怖感もドキドキする。

 嫌じゃない。


 付き合って……二ヶ月ですよね。私たち。

 

 私は震えながら口を少し開けて、彼の所にそっと顔を近づけます。

 彼の膨らみから流れてくる仄かな匂い。

 動物のような、とでも言うのか。

 飾っていない「生き物」の匂い。

 ちょっと生臭さと汗の混じった……甘い匂い。


 私は我慢できなくなり、彼の耳たぶを触りながら膨らんでる大切な部分を下着の上からそっと……唇で挟みました。

 すると、そこは驚くほど熱くて……僅かに脈打ってて、私は思わず口を止めてしまいましたが、すぐに彼の匂いに脳の奥がトロンとしてしまい、さっきよりも深く咥えました。


 その固さと大きさ、そして彼本来の温もりに心臓が破裂しそうなくらいドキドキします。

 愛の無い男性の方であればおぞましささえ感じるのでしょうが、愛する方の物と言うだけでこんなに愛しく……心地よい温もりを感じるものになるなんて……不思議。


 脳の奥の桃色のもやに身を任せながら、彼の大切な所に何度もキスをしたり唇を先から根元まで這わせていると、彼の口から「んん……」と言う切なげな声が聞こえてきました。


 気持ち……いいんだ……


 私はその事実に表情が緩んできました。

 心なしか彼の匂いがより強くなってる。


 私は、彼の下着をさらにずらすと、むき出しになった彼の大切な部分に頬ずりしました。

 彼の熱いくらいの感触と匂い……

 凄い……

 しばらく頬をこすりつけたり、キスしたり。

 さらに優しく唇で挟んだりしているうちに、自分の中のとある変化に気づきました。


 ……私の下腹部が変に疼いているのです。

 これ……あれ?


 どうしよ……凄く……ジンジンする。


 押さえようとしても収まらないので彼の顔を見ると、起きる気配はありません。

 よっぽど酔ってらっしゃるんだ。

 そっか……


 ねえ……私たち、付き合ってるんですよね?

 二ヶ月……ですよね?

 ちょっとくらい……いいですか?


 私は彼の手を持つと、それを自分の下腹部へ当てました。

 彼の指先の感触が私の下着越しに伝わってる……

 がっちりした男性の……指先。


 私はたまらず、彼の横に寝転がると彼の指を、私の秘部……下着越しにもう数回こすり付けます。

 こんな薄い布越しに……

 嬉しくて、そしてあまりにも悪い事をしているのに、止められない。

 思わず声が漏れるのが分かります。


「今、お互いの……触ってるんですよ。私の事、嫌いになりますか? ……んっ……でも、もう逃がして……あげない。……ね、もっと……汚して」


 ●○●○●○●○●○●○●○●○


「……あ、ゴメン。なんか、寝ちゃってたんだね。ほんと、ごめんね」


 目が覚めてソファから慌てて身体を起こした彼に、私はニコニコと微笑みながらお水の入ったグラスを置きました。


「お気になさらず。私も


「へ? あ、何かしてたんだ」


「はい。……お教えする事は出来ませんが。ところで、シャワー浴びてきてもいいですか? ちょっと……汗をかいてしまったようで」


「あ、もちろん! ってか、君のマンションなんだから、ご自由に」


「ふふっ、ではお言葉に甘えて……失礼しますね。あ、喉が渇いたら冷蔵庫の中の物、ご自由に飲んで下さい。ウォーターサーバーのお水ももちろん」


 そう言うと私はいそいそとお風呂に向かいました。

 いささか汗をかきすぎてしまいました。

 それに下着も替えないと……酷く汚してしまったので。


 ……お付き合いして二ヶ月……ですか。

 来月は……もうちょっと、私からなにかしてみても……良いかもですね。


 そんな事を考えながら、私はそっと下腹部を撫でました。

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