2021年3月

3月3日(水)


緊急事態宣言が二週間延長されるらしい。もううんざりだ。でも蓮くんは前向きだった。


「その分もっと良い曲作っておきますよ」


彼はそう言って笑った。その笑顔に救われる。


今日はひな祭り。私はちらし寿司を作った。少し多めに作って彼のドアの前に置いておく。すぐに彼からLINEが来た。


『めちゃくちゃ美味かったです! お母さんの味を思い出しました』


あたしゃお母さんかい! ……でもそのメッセージに胸が温かくなる。


3月12日(金)


変異株が怖い。東京も感染者数が下げ止まっている。宣言が解除されてもきっとまたすぐに次の波が来るのだろう。


蓮くんが新しいバイトを始めたらしい。フードデリバリーの配達員。自転車で都内を駆け回っているという。


「色んな街が見れて面白いですよ」


彼はそう言うけれど身体が心配だ。


3月21日(日)


緊急事態宣言がようやく解除された。長かった。


その夜、私たちは初めて会った。ベランダ越しではなく。


待ち合わせは近所の小さな公園。先に着いてベンチで待っていると彼が走ってきた。画面越しでは分からなかった少しあどけない顔立ち。そしていつも聞いていた声。


「……蓮くん」

「……更紗さん」


私たちはしばらく見つめ合ったまま言葉を失っていた。そしてどちらからともなく吹き出して笑った。


「やっと

「うん、やっと会えたね」


その日、私たちは彼がおすすめだという豚骨醤油のこってりしたラーメンを食べた。カウンターで並んで夢中で麺を啜った。美味しかった。今まで食べたどんなご馳走よりも美味しかった。それはきっと隣に彼がいたからだ。


思わず替え玉をしてしまった。

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