第45話『道の駅「白い肌」の誘惑』
道南の、とある過疎化が進む町外れ。かつて賑わった国道沿いの道の駅は、今や訪れる人もまばらとなり、間もなく廃業するという噂を聞いていた。
俺は偶然その前を通りかかり、閉鎖される前に立ち寄ってみようと思ったのだ。
駐車場には車が一台もなく、建物も薄汚れていて、時の流れを痛感させられた。道の駅の中は照明も暗く、閑散とした空気が漂っていた。
建物内を散策すると、奥に古い展示室を見つけた。その展示室の看板には、色褪せた文字でこう書かれていた。
『伝説の美女──男を虜にする「白い肌の女」展』
妙な展示があったものだと苦笑しつつ、中へと足を踏み入れる。
薄暗い室内には、昔の町の写真や民話がパネルで紹介されていた。その中央に一枚だけ奇妙なパネルが立てられている。
『男を惑わす、白い肌の女──彼女を目にした男は、永遠に囚われる』
パネルの裏側には、リアルな肌色の絵が描かれていた。触れると滑らかで、冷たい感触が伝わる。
思わず手でその絵をなぞっていると、不意に背後で誰かが息を吐いた。
振り返るが、誰もいない。気のせいかと思い、もう一度パネルに視線を戻す。
すると今度は、明らかに誰かが俺の腰に手を掛けている感覚があった。驚いて視線を落とすと、ゆっくりとベルトが外され、下着がずり下げられようとしている。
「おい、誰だ!」
叫んで振り返るが、室内は相変わらず無人だ。だが感触は確かで、俺の腰の周りを滑るような指先が伝わってくる。
「ああ、待ってた……」
耳元で囁き声がした。甘く湿った女の声だった。すぐに逃げ出したかったが、身体が動かなかった。
俺はパネルの前で立ち尽くしたまま、ゆっくりと下着を下ろされていった。すると今度は、下半身に温かく湿った舌のようなものが這い回り始めた。
「んっ……やめろ……!」
叫び声が漏れるが、誰にも届かない。抗えぬまま快感が込み上げ、俺はその場で情けなくも達してしまった。
ふと気づくと、下半身が濡れていた。何かに舐められた跡がはっきりと残っていた。
パニックになり展示室を出ると、受付に年配の男性が一人座っていた。彼は俺の様子を見て、意味深に言った。
「ああ、あんたもか……ここは昔からそうなんだ」
「ここは一体、なんなんですか?」
「昔、この町にはとびきりの美人がいてな。彼女の白い肌は男を虜にした。だが、男に騙されて傷ついた彼女はここで命を絶った。それ以来、ここに訪れた男を自分と同じように虜にしようと現れるんだよ……」
俺は黙ったまま立ち尽くした。身体にはまだ、さっきの女の唇や舌の感触が生々しく残っている。
それ以来、俺は道の駅を見るたびに無意識のうちに立ち寄ってしまうようになった。
一度覚えたあの唇と舌の感触は消えるどころか、より鮮明に蘇る。誰もいない道の駅に立ち寄るたび、必ず下半身に温かく濡れた舌が現れ、俺を執拗に愛撫し始めるのだ。
最初は恐怖だったが、回数を重ねるごとに俺はその感触を求めるようになっていった。
もう普通の女では満足できない。あの見えない存在の唇と舌が、俺を永遠に縛り付けている。
今日も俺は、廃業寸前の道の駅へと足を運ぶ。
『男を虜にする白い肌の女』
看板を見るたびに、俺は震えながらも期待してしまうのだ。
──今夜もあの唇に、俺は支配されるのだろう、と。
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