第13話 完璧美少女、全力応援中!
体育祭本番。朝から快晴で、夏のような陽射しが容赦なく降り注ぐ中、グラウンドには色とりどりのクラスTシャツが並び、応援の声と笛の音が絶えず響いていた。
「次の競技は男子障害物リレーです! 出場者の皆さんはトラック内に集合してください!」
スピーカーからアナウンスが流れると、校庭の端で控えていた走者たちが、ぞろぞろと集合場所に向かって歩き出す。もちろん、その中には俺の姿もあった。
(まさか俺が出ることになるとはな……)
きっかけは一か月前の競技選出のとき。クラスでどの競技に誰が出るか決める話し合いのなか、突然誰かが「花宮、お前足速いんだし障害物リレーどう?」と言い出したのだ。
「いやいや、俺そこまで足速くないし……」
「シャトルランで学年トップだった奴が何言ってんだよ」
「あと、跳躍力あったほうが有利だし、花宮向いてるって」
半ば押し切られる形でエントリーが決定。実行委員として裏方に回るはずだった俺は、気づけば競技者としても出ることになっていた。
実際、走るのは嫌いじゃないし、誰かがやらなきゃいけないなら、それが自分でもいい。だけど――
「裕樹くーん! がんばってぇーっ!!」
観客席から、ひときわ目立つ声援が飛んできた。
振り返らずとも誰の声か分かる。黄色のクラスTシャツを着た彩香が、ポンポンを高く掲げてこちらに向かって叫んでいる姿が目に入った。
「……まったく、どんだけ本気で応援してんだよ」
照れくささを誤魔化すように、俺は前を向き直す。こっちはもうすぐ出走なんだ。集中しなきゃならないのに、声援が思った以上に胸に刺さる。
コースには、ハードル、麻袋ジャンプ、平均台、ネットくぐり、そして最後の関門として、跳び縄十回という構成が並ぶ。ふざけたように見えるが、やってみると結構ハードだ。
前の走者がスタートラインにつき、ピストルが鳴る。場内が一気に熱を帯びる。順番が近づくにつれ、鼓動が速まっていく。
そして、いよいよ俺の番だ。バトンを受け取り、スタートと同時に飛び出す。
「いけーっ! 裕樹くんっ!!」
再び彩香の声が飛んでくる。声援というより、もはや絶叫だった。周囲の注目が一瞬こちらに集まったのを感じて、思わず顔が熱くなる。
(おいおい、目立つ……)
ハードルを難なく飛び越え、次は麻袋に両足を突っ込んで跳ぶ。ここでバランスを崩すと派手に転ぶやつが多いが、なんとか安定した姿勢を保ったまま跳躍を繰り返す。
「ナイスバランスー! そのまま行けーっ!」
(実況かよ……)
苦笑しながらも、確かにその声は俺の背中を押してくれる。
平均台の上を慎重に渡りきり、ネットをくぐり抜けたころには、息が切れてきた。汗が額を伝う。足が少し重くなる。
(もうちょいだ、ラスト……!)
最後の縄跳び十回。失敗すれば最初からやり直し。ミスるわけにはいかない。
一、二、三……。息を整えながら、リズムに集中する。
七、八、九……十!
着地と同時にバトンを握りしめ、ラストスパートをかける。
「ファイトーッ! ゴールまであとちょっとーっ!!」
その声に背中を押されるように、ゴールラインを全力で駆け抜けた。
ゴールの瞬間、周囲の歓声が爆発した。
結果は――2位。でも、悔しさよりも、達成感の方が勝っていた。
(やりきった、って感じだな……)
そのとき、観客席から勢いよく走ってきた彩香が、俺の前でぴたっと止まった。
「裕樹くんっ! すごかった、ほんとにすごかったよっ!!」
両手でタオルとペットボトルを差し出す彼女は、目を輝かせていた。
「お、おい……そんなに褒めると照れるって……」
「だって! あんなにかっこいい姿、はじめて見たかも」
「……今までどんだけ低評価だったんだよ」
「ち、違うの、そういう意味じゃなくてっ!」
ぷくっと頬を膨らませる彩香の顔を見て、つい笑ってしまう。
「ありがとな、彩香。おかげで力出たよ」
「ふふっ、でしょ? 今日の私は、応援全振りモードなんだから」
***
休憩エリアの端に腰を下ろして、ふたり並んで水を飲んでいた。木陰を通る風が、火照った体に気持ちよく吹き抜ける。
「なあ、今日みたいに誰かに応援されるのって、悪くないな」
「え?」
「いや、今まで体育祭とか目立たないようにしてたけど、今日出てみて思った。彩香の応援、めちゃくちゃ嬉しかったって」
「……っ、そ、それは……わ、私も応援しながらドキドキしてたんだからね」
「うん?」
「……いつも私ばっかりポンコツになってるけど、今日は裕樹くんががんばってる姿見て、なんか、ちょっと……ずるいって思った」
「ずるい?」
「うん、かっこよすぎて……ずるい」
素直すぎる言葉に、こっちの方が恥ずかしくなってくる。
「じゃあ……これからは、お互いに応援し合うか」
「……うん、そうだね」
言葉にしなくても通じ合うような、そんな距離が今の俺たちにはある気がした。
風がまたふわりと吹き抜ける。
体育祭の熱気とは裏腹に、どこか心が落ち着いているのは、隣に彩香がいるからだろう。
そして、ほんの少しだけ――この距離の先にあるものを、期待してしまいそうになる自分がいた。
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