第3話 電線と赤とんぼ

秋が来て、赤とんぼが空を埋めた。


兄やんと僕は、ゴミ捨て場で拾った紐と石ころで「鳥を捕る武器」を作った。


「坊、これで鳩を捕まえるぜ! アマゾンの部族みたいにな!」


兄やんがブンブン振り回すと、紐が電線に絡まって、蛇みたいにくるくる巻きついた。


鳩は逃げたけど、僕らは興奮して、何度も投げた。


電線は、まるで季節外れのクリスマスツリーになった。


「兄やん、すげえ! 僕ら、世界一のハンターだ!」


「だろ? オレと坊なら、なんでもできる!」


兄やんは笑ったけど、遠くで電力会社のおじさんが何か叫んでた。


その時、作業着の男が兄やんに近づいてきた。


「君、二十歳も過ぎて、こんなガキと遊んで何だ? 近所で噂になってるぞ。ちゃんと働きな。」


兄やんは顔を真っ赤にして、走って行ってしまった。


僕の声は、風に置き去りにされた。


それから、兄やんはしばらく姿を見せなかった。


駄菓子屋に通うだけの毎日で、僕は何か大事なものを失った気がした。


母は僕をパン屋やケーキ屋に連れ出すけど、兄やんみたいには笑えなかった。


ある日、窓に小石が当たった。


兄やんだった。


「坊、ヤゴを捕りに行くぞ。トンボになる前の、すげえやつだ!」


彼の笑顔は前と同じだったけど、目が少し遠くを見てた。

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