えっ、殿がご乱心！？ 信虎の野望 全国版

プロローグ：設計者の覚醒

彼はかつて、地方国立大の助教として、

農業土木と持続型灌漑の研究に身を投じていた。

専門は、災害に強い地方インフラ設計。

国の未来図を描くはずだったその手には、

しかし、実験用のセメントと、古びた土壌サンプルだけがあった。

来る日も来る日も、研究室に籠もり、

土と水と構造物の関係を数式とデータで解き明かす日々。

それが、彼のすべてだった。

気がつけば、戦国の荒野に立っていた。

土煙と血の匂いが混じり合う中、目の前には、

川が氾濫し、流された橋の残骸が散らばる村があった。

誰かの娘が飢えて死にかけている。

その小さな、しかし確かな命の輝きが、

彼の冷徹な研究者としての目を、熱く震わせた。

「……ここに堤を築く。道を延ばす。種を配れ。今すぐに」

焼け焦げた木片、壊れた桶、そして、泥にまみれた鍬。

彼の専門は、構造設計、水利制御、土壌改良。

そして、何よりも、

「持続可能な社会基盤の構築」だった。

戦国武将・武田信虎――この名を持つ男は、

国家を、地図を、人を、まるで巨大な設計図のように、

ゼロから再設計する決意をした。

彼の天下は、血の海ではなく、水路が巡り、道が繋がり、

麦が実る、“設計された平和”によって築かれるだろう。