第8話 私の好きな人
私の好きな人はヒーローです。
えいえいえいと悪い奴を倒すような暴力的なヒーローじゃなくて、……目的のために一生懸命に頑張るタイプのヒーローです。
だからニッチなモノを目指していても女の子を惹き付けてしまうんだと思います。
ちょっと焦ります。
特にいすずちゃんは要注意です。
元々、彼がいすずちゃんのことが好きだったのも知っています。
彼はラノベ作家を目指しています。
ラノベ作家になるために、掃除機のように色んなモノを金木くんは吸収しているように見えます。カッコいいです。
そして吸収したモノを放出するように今この瞬間に集中して書いています。
書いている時は驚異の集中力です。
すごいスピードでキーボードを叩き、目がバキバキで、近くにいても迫力があります。
漫画ならオーラがボワーって出ている感じがします。
この人は何をしても、いつかは成功する人なんだろうなぁ、って私は思っちゃいます。
私が彼のことを好きだから、そう思ってしまうのかもしれません。
だけど、そう感じているのは私だけではありません。
もし彼が王道のモノを目指していたら?
例えば芸人だったりユーチューバーだったりスポーツ選手だったり。
そういったモノを目指していたら、もっと彼を取り合う競争相手が多かったかもしれません。
だから競争相手が少ないニッチなモノを彼が目指してくれて、ラッキーだと思うことにしています。
ラノベ作家。
なんですかそれ?
なんだったら、ちょっとオタクっぽくてキモいです。
初めて彼に出会ったのは中学3年生の時です。
すでにラノベ作家という謎の職業を金木くんは目指していました。
そして私は彼にイジメを解決してもらいました。
中学3年生の時に、目の前に現れたヒーローに私は恋に落ちてしまったんです。
ブレずに二本足で真っ直ぐ立っている彼に惹かれたんだと思います。
高校も同じところに通いました。
部活動を作ったけど人が足らないと聞いたから、入部もしました。
金木くんは私のことが好きなんでしょうか?
それともいすずちゃん?
最近は京子先輩ともお笑いの話をいっぱいしています。
中本先生は絶対に無しです。
一条さんも私が嫌です。
できれば、私を好きになってほしいです。
彼に触れたい。触られたい。
私はそんなことを思っています。
だから部室に早く来て、そこに金木くんだけいたら、寝たフリ作戦で彼に近づきます。
そんなある日。
金木くんだけが部室にいたから、寝たフリ作戦を実行しました。
「寝たの?」
と金木くんに尋ねられました。
寝たフリ作戦を開始してから初めて声をかけられました。
「寝ましたよ」
と私は答えました。
「それじゃあ何をしてもバレないよな?」
と金木くんが言います。
金木くんはいったい私に何をしようとしているんでしょうか?
寝たフリ作戦が成功する予感があります。
「バレませんよ」
と私が答えます。
私は寝たフリをしているので目を瞑っています。
金木くんが椅子から降りて床に座った気配がします。
そして彼の気配が私に近づきます。
ドキドキ、と心臓の音が聞こえます。たぶん私の心臓の音です。もしかしたら彼の音かもしれません。
彼の呼吸が私にかかります。
そして私の唇に、彼の唇が触れました。
体が急激に熱くなっていくのがわかりました。
金木くんのことは大好きです。
ずっとキスされるのを夢見てきました。
彼はどういう気持ちで私とキスをしたのでしょうか?
嬉しい。
だけど彼の気持ちがわからなくて怖い。
それにいすずちゃんに勝った優越感が混ざり合います。
私は嫌な女です。
いすずちゃんに勝ったことが嬉しいんです。
「ごめん」
と金木くんが言いました。
私は目を開けます。
普段と変わらない金木くんがいました。
たぶん私だけが真っ赤な顔をしています。
「謝らないで」
と私が言います。
「急にされて驚いたけど」
金木くんのことが好きです。
と私は言おうと思いました。
だけどガチャ、と部室の扉が開いて、いすずちゃんが入って来ました。
好きと彼に伝えることができずに、下唇を噛みました。
彼を誰にも奪われたくない、と私は思っています。
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