目覚めた先は___
「随分と、変な夢を見たな」
何でクソ爺の死に際の光景なんだ。
お? あれか? 言った通り俺の周りの人間が、俺が肉盾になったから死んだぞってか? 喧しい、そんなこと分かり切ってんだわ。というかいつでも肉盾業務が出来るようにはしてたけど、全部終わって早々にこんな目に遭うなんて思ってねぇわ。
いや想定してたとしても避けられるか。避けたら避けたで普通に死んでたか、気付かない内に全滅してましたってオチじゃねぇか。忠告するなら、もっと具体的にどんな感じで直したらいいのかも言い残せクソ爺。だから生涯独身だったんだろうが。
ビークールだ。死人の遺言にキレてもしゃあねぇ。
爺の死に際としては悪くねぇ死に際だったかもしれねぇけどな、性格はクソだしやる事なす事話す事が全部極端だったから。
尊敬は全く持って出来ねぇ。凄いことを成したというのは分かってるし、だからこそ死に際を嫌がらせも兼ねて見送りに行ったし、その後の弔いとして邪神の眷属共を殺しに行ったエルフたちに協力したんだけどな。敬う気持ちには絶対なれねぇ。
成し遂げたその先で死んだとしても、奴はクソ爺で十分だ。最後まで人のことをクソガキ呼ばわりしてたしな。
「それにしても此処はどこだ?」
夢とクソ爺のことは投げ捨てて、今俺が目を覚ました場所のことを考える。
ちなみに見覚えは一切ない。大抵意識が吹っ飛んで、その近くの建物で目覚めるってことを繰り返したりしてるから色んな天井を見てきたが、この天井を含めた内装に関しては一切見覚えが無い。
知らない天井だ、っていうやつだな。変な夢見たから言い損ねたけど。
雰囲気としては普通のログハウス。
窓が存在してなかったり、扉が鎖で固められていたり、隙間という隙間が徹底して潰されていたり、魔法による封印が多重に仕掛けられていたりもしない。
極々普通といった印象を受けるログハウス。ちなみに窓から差し込んで来ているのは日の光ではなく月の光で、変な印象を受けないのでおそらくは第一領域の何処かしらではあるのだと思う。
ちなみに第四ではないのは間違いない。なにせあの領域にこんな普通の家がある訳ねぇし、そもそも俺があの領域で見つかったらされることは保護じゃなくて晒し首だからな。いやまぁ、割と大暴れしてたから仕方ねぇんだけど。
「……動かんな」
立ちあがって動きたいが、流石に限界を迎え過ぎている。
寝転がった状態から上体を起こすのでさえかなりキツイ、おそらく自力で立ち上がろうとしても崩れ落ちて動けない状態が続く羽目になる。
これに関しては無能な俺が肉盾業務を全うするために必要な代償だ。
霊薬の効果で傷はすぐに治るんだが負った痛みとかは消えない、肉盾をしている時はアドレナリンが出まくっているから問題ないんだが、諸々が終わって力を切ると痛みの逆流で大体は気絶するしこうやって自由に動かせなくなる。
まぁこの状態でも力を使うことは出来るし、ちょっと休んで体がまだちゃんと付いてて動くっていうのを取り戻せたら、あとは疲労感と痛みが出るだけで自由に動かせるようになるからそこは大丈夫。
ただ、動けないっていうのは不便。
昔は考える事すら苦痛だったし、そもそも自我を失いかけてたからそれに比べればマシではあるんだけどな。
「それにしても……此処は何処だ?」
家主に礼の一つでも言いたいんだけどな。あと謝罪。
邪魔なら適当に捨ててくれとも伝えたいしな。
「目覚めたか、名乗らぬ人間」
「んあ? ………えぇ?」
「ふん。相変わらず腑抜けた面をしている……まぁ良い、目覚めたのなら食事を持って来てやる。喜べ、今日の食事は粥だ」
「いや、待て待て待て。何で?」
「俺が見つけて、俺が拾って、俺の家に運んだ。それだけだ、では待っていろ」
「………はい?」
………目覚めた先に居たのは、予想外の知人でした。
いや、予想外にも程があるわ! 何で俺を見つけられるような場所に居るんだ、ってか飛ばしたんだあの阿呆は! お前のぶっちぎりの天敵だろうが!!
***************
「存外、元気そうではないか」
黒が喜びを隠し切れない雰囲気で言葉を吐く。
『嬉しい。嬉しい。嬉しい』
『貴方はどうなのかしら?』
それに応えるように金と紫が言葉を投げる。
「ふむ」
「悪くない。互いに生きて会えるとも思っていなかったしな」
『あらあら、ふふ』
『珍しい。珍しい。珍しい』
「む? あぁ、笑っているのか。確かに久しぶりに口角を動かしたな」
『思わず嫉妬しちゃいそうね』
「戯言を。あいつを見守るために俺と契約を交わしただけだろうに」
『えぇ、だから嫉妬しちゃいそう』
「俺に対してか。なら契約を切るか?」
『ダメ。ダメ。ダメ』
『ダメらしいわ、ごめんなさいね』
「ふんっ」
『助けて。助けて。助けて』
黒と紫の言葉の応酬に、金が戸惑い助けを呼ぶ。
『喧嘩か?』
「じゃ、両成敗だな」
助けを呼ぶ声に応えて、白と青が割って入る。
『喧嘩じゃないわ』
「喧嘩ではない。じゃれあいだ」
『嘘。嘘。嘘』
『嘘じゃないわよ? 水と油みたいな物だし、仕方ないじゃない』
「うむ。手は出していなかったしな」
『……。……。……』
『じゃあ、殴るか』
「止めておこう。キリが無くなる」
『そうか? 片っ端から殴れば良いじゃねぇか』
「無駄だよ。そもそも、こうなっている事の方が異常だからな」
黒が、紫が、金が、白が、青が言葉を交わらせていく。感情を隠さず表に出しながら。
「そうだ。それより、それが粥だな? 俺が届けよう」
「はぁ? いやまぁ、良いけどよ」
『いやいやいや、俺も顔を見たいんだけど?』
「止めておけ。それよりも、お前らはさっさと引き剥がす手筈を整えろ」
『……まだ残ってんのかよ』
「寧ろ強くなっていたぞ。大方また何かしらを背負ったんだろう、あれだけの無理をして生きている時点で儲け物だがな」
「んーー、まぁ仕方ねぇか。んで、どれを引き剥がすんだ?」
『あぁ、そうだ。全部は無理だぞ、根付き過ぎてるのもあるし引き剥がそうとしたら魂ごと取れるしな』
『!? ダメ。ダメ。ダメ』
『するつもりかしら?』
「そんな気は無い。殺意を向けるな、契約者だぞ」
『でも、私は殺せるわよ』
「下らん。戯言は放っておけ」
黒が宣言する。
「引き剥がすのは始まりの対価だ。魂の根幹に結び付いたアムリタが戻した、悪魔が奪い去った始まりの対価に掛けられた封を引き剥がせ」
確かな目的を見据えながら。
不確定の未来を見ながら。
『……マジで言ってんのか』
「……いや、確かに出来ないことは無いけど、封を外したところで思い出せるかどうかは分からねぇぞ?」
『そうだそうだ。それをするくらいなら、他のまだ効果を発揮し続けてやがる対価を引き剥がすべきじゃねぇか?』
「それでいい。思い出せなくとも、思い出せるような状態になっているべきだ」
『べき、ね。何を見たのかしら?』
『疑問。疑問。疑問』
「……いや、話さなくていい。気にはなるけどよ、彼奴がいる内に進めなきゃいけねぇんだろ? だったら、さっさと終わらせるぞ」
『了承。了承。了承』
「では、任せた。俺は食わせて来る」
「無理はさせんなよ。食えねぇなら、横に置いておくなりお前が食うなりして処理しろよ。そんな薬粥、俺は食いたくねぇからな」
『…………はぁ、仕方ないわねぇ』
『キビキビ働けよ。普段の仕事をさぼってる分、働いてもらうからな』
「ではな。俺はこのまま、付きっ切りで看病をすることにする」
「いや、それはちょっと話が違うな?」
『認められる訳ねぇだろ、馬鹿言ってんじゃねぇ』
『やっぱ殺すわ、今、此処で』
『不可。不可。不可』
「では、押し通させてもらう」
そして、黒が制圧される。
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