見てはいけない物語

銀ジ

天井のシミ


 薄暗い部屋にテレビの音が響いている。


 『〇〇市では今月に入って3人も行方不明になっています。いずれも深夜に姿を消しており、警察が捜索を続けています』


 淡々としたニュースキャスターの声が流れる中、ソファに座っている男が、テレビの画面を見つめる。


 「またかよ…」


 漢が暮らす〇〇市では立てた続けに不可解な失踪事件が起きていた。


 「気味が悪いな」


 すると男の喉の奥がヒリついた。


 「…ん、ゴホッゴホッ!」


 突然、激しい咳が込み上げてきた。


 慌てて口元を手で覆う。


 「えっ?何これ」


 手のひらには赤黒い血がついていた。


 男は動揺しながらも血を拭き取ると車に乗ってこの町で一番大きい病院へと向かった。


 男が病院に着くと口から血が出たことを医者に説明するとすぐに検査室に案内された。


 血液検査やレントゲンなどの様々な検査を終え、男は診察室の椅子に座って結果が出るのを待った。


 すると医者が診察室に入ってきた。


 「佐藤さん結果が出ました」


 そう言った医者の顔はとても暗かった。


 「重い病気とかじゃないですよね?」


 その問いに医者は首を振る。


 「残念ながら、現代の医療技術では治療が不可能な病気です。このままではあと一ヶ月も生きられないでしょう」


 「えっ…一ヶ月…本当ですか…?」


 「残念ですが本当です」


 それから医者は病気について説明をするが男は放心状態になっていた。


 その顔を見て医者は口を開く。


 「ですがウッドスリープというものがあります」


 「少し前にニュースになってた木になるやつですよね?」


 「ええそうです。特殊な薬で肉体を樹木化させ、老化も病気の進行も止めることができます。ですから治療法が見つかるまで木になって待つんです」


 医者はそう言うと男に承諾書と書かれた紙を渡す。


 「もし希望されるのならそこにサインをしてください」


 男は紙を見つめる。


 「少し考える時間をください」


 「では1週間後にまたお越しください」


 男は家に帰りネットでウッドスリープについて調べた。


 そして1週間が経った。


 男は他に方法がなく、どうすることもできなかったのでウッドスリープをすることにした。


 「あのっやります」


 「そうですか覚悟が決まったようですね」


 男は承諾書にサインをした。


 「では明日の午後11時に病院裏にある林に来てください」


 「そんなに遅い時間にですか?」


 「午前中は忙しいのでね」

 

 次の日の午後11時。


 男は指定された病院裏の林に来た。


 「不気味だな…」


 遅れて医者もやってきた。


 すると医者が錠剤を渡してきた。


 「これを飲んでください」


 男は言われた通り薬を飲んだ。


 その瞬間、男の皮膚は硬化し一分ほどで一本の木になった。


 「馬鹿なやつだ」 

  

 医者そうが言うと誰かに電話をし始めた。


 「いつもの頼むよ」


 数時間後作業服の男がチェンソーを持って現れる。


 「この辺りの木を頼むよ」 


 医者の指示に、作業員は無言で頷く。


 ギィィィィン!


 木になった男にチェンソーの刃が食い込んでいく。


 その様子を見ながら医者は笑みを浮かべる。


 「今回も高く売れそうだ」


 

 

 場面は変わり、山あいの旅館。


 「もう寝ようかしら」


 中年の女は布団の中に入ると、天井が目に留まる。


 「ん?何あれ。不気味ねぇ」


 天井の木の板には黒いシミが浮かび上がっている。


 それはまるで人の顔のように見えた。



 END 

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