第29話「納豆工房へ」

休日の朝。

日向めぐるは、静香とれいに連れられて町田郊外の道を歩いていた。

目的地は──リコリスに納豆を卸しているという工房。


今日の献立(出発前に食べたリコリス弁当)


ご飯


味噌汁


漬物


プルコギ風(甘辛だれと牛肉の旨み)


コールスローサラダ(キャベツと人参のシャキシャキ感)


こんにゃく煮(味しみしみ)


納豆(例の工房製)


めぐるは納豆を混ぜながら、ふとつぶやく。

「……やっぱり、この納豆、他のとは違う」

静香が頷く。「数値で見ても、普通じゃない。代謝に直接働きかけるレベル」

れいは笑って「難しいことはわかんないけど、とにかく美味しい!」


弁当を食べ終えた3人は、いよいよ工房へ。



工房は一見すると古びた納屋のよう。

だが近づくと、中からは低い機械音と発酵した豆の香りが漏れていた。

扉を開けると、白衣の人々が黙々と作業をしている。


「いらっしゃい」

年配の女性が迎えてくれた。工房長だろうか。


「リコリスの弁当、召し上がっている方ですね?」

「えっ……なんで分かるんですか?」めぐるは驚く。


「顔色を見れば分かりますよ。うちの納豆を食べている人は、みんな血の巡りが整うんです」



工房長は案内しながら語る。


大豆は特別な契約農家のもの


発酵菌も独自の系統で、代々受け継がれている


そして「全体の献立設計は別の方が監修している」とも……


めぐるは思わず口にする。

「……それって、“山岡るり”さんのことですか?」


工房長は一瞬だけ黙り、微笑んだ。

「その名を、もう聞いたのですね」


だが、それ以上は語らず、納豆の香りに満ちた工房の中で言葉を濁した。



工房を後にした帰り道、めぐるは胸の奥に奇妙なざわめきを抱えていた。

「……納豆が、町田の栄養を支えてる? そして山岡るり……」


謎は深まるばかり。

だが次の弁当は、またきっと“美味しい”に違いない。

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