第25話「猫丸の言葉」

めぐるが弁当を広げると──

今日の献立


ご飯


味噌汁


漬物


和風おろしハンバーグ


ネギ塩もやし


なべしき


弁当箱の真ん中にどっしり鎮座する和風おろしハンバーグ。

大根おろしがふわりと山のように盛られ、ポン酢の香りが立ちのぼる。

ネギ塩もやしのシャキシャキとした緑の彩りが加わり、滋味深い味噌汁が脇を固める。


「おう、嬢ちゃん。それ、リコリスのか?」

声をかけてきたのは、町田界隈の謎の語り部──根津猫丸。


いつも唐突に現れるこの男。だが今日は、妙に弁当をじっと見ている。


「……なんか知ってるんですか?」

めぐるの問いに、猫丸は口の端を吊り上げて笑った。



「リコリスはな、ただの弁当屋じゃねえ。

 ……あそこは、“栄養”を担ってるんだよ。人間の、街の、ひいては町田そのものの、な」


めぐるは箸を止める。

「街の……栄養?」


猫丸はそれ以上語らない。ただ、味噌汁を一口もらうような仕草をして笑い、

「おろしの辛味、いい塩梅だな」とだけ残して立ち去った。



謎を残して去る猫丸。

めぐるは弁当を食べながら「リコリスって……やっぱり普通じゃない」と改めて実感する。


しかも今日の弁当の片隅には、小さく 「監修:山岡」 と書かれた紙切れが。

めぐるはそれを見て首をかしげるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る