第14話「マヨネーズと弁当の交差点」
春の昼下がり。
桜美林大学の中庭のベンチで、日向めぐるは静かに弁当を広げた。
今日のリコリスは、さばの味噌煮が主役。
ほんのり甘く、煮汁がご飯に染みるタイプ。
優しい味付けのだし巻き玉子。
彩りを添えるほうれん草のお浸し。
「……これぞ、正統派って感じだなあ……」
そのとき、隣にすとんと座った人物がいた。
大学生にしては大柄で、どこか“異世界の匂い”がする。
めぐるがちらっと横目で見ると、
彼もまた、リコリスの保冷バッグを開けていた。
(あれ……あの人もリコリス食べてる……?)
――が。
次の瞬間、めぐるの動きが止まる。
その男は、
さばの味噌煮にマヨネーズをドバドバとかけていた。
さらに、
だし巻き玉子にマヨ。
ほうれん草にマヨ。
漬物にも、マヨ。
「……え、えええええええ……!?」
思わず声が漏れた。
「うむ。今日のさば味噌、マヨとの相性……良し!!」
満足げに頷く男の姿。
「すいません、あの……それ、全部にマヨネーズかけてますよね……?」
めぐるの勇気ある問いに、男は振り向き――
爽やかな笑顔でこう言った。
「当然だ。
“マヨネーズこそが我が魔力の源”――勇者、白瀬マサトだ。」
(え、自己紹介のクセつよ……!?)
「この町田で、再び力を取り戻すべく……私はマヨを喰らい続けている」
「い、いやでも……リコリスって、栄養バランスとかも含めて……」
「うむ、それも理解している。だが、私はリコリスの弁当を“拡張”しているだけだ」
彼は真顔で、さば味噌マヨご飯を豪快にかきこむ。
「これは……さば味噌マヨチャージ……! ふははっ、魔力が……溢れる……!」
めぐるはもはや何も言えず、ただ唖然と見つめていた。
(リコリスに……こういう食べ方をする人もいるんだ……)
昼休みが終わる頃、マサトは席を立ち、
マヨのボトルをしまいながら言った。
「君も、信じるといい。
“マヨネーズはすべての味に寄り添う”――それが、世界の理だ」
「……いえ、私はそのままが好きです」
「それもまた、正義だ。では、またいつか――昼の戦場で会おう!」
去っていく謎の男を見送りながら、
めぐるは、そっと自分のさば味噌に箸をつけた。
「……そのままが、いちばんおいしいや」
そう思えることが、
今の自分には、ちょっとだけ誇らしかった。
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