第13話「“あなたのために”だったのかもしれない」
春の午後、雨が降った。
傘をさすほどではないけど、空気は少し肌寒い。
そんな日だった。
日向めぐるのもとに、いつも通り届いたリコリスの弁当。
白い保冷バッグ。昨日と同じロゴ。
でも、開けた瞬間――
「……デミハン……ッ!」
目を奪われるほどツヤッツヤのデミグラスハンバーグが、
堂々と弁当の中心に鎮座していた。
その隣には、ほんのり甘いピーナッツ和え、
そしてカリッポリ食感の切干大根のハリハリ漬け。
「……今日、絶対わたしのこと見てたでしょ」
そんなふうに言いたくなる、
“分かってる感”がすごすぎる布陣だった。
味噌汁を飲んで、心がほぐれる。
ピーナッツ和えの優しさに泣きそうになる。
そして――デミハンをひと口食べた瞬間、
めぐるの口から、ぽろっと出た言葉。
「これ……“ちゃんと、あなたのために”って作った味だ……」
午後、図書館で静香とすれ違う。
「今日のハンバーグ、反則だった」
「うん。副菜のピーナッツ和え、栄養価より“人間味”を感じた」
夜、スマホを見たら、リコリスのサイトが少しだけ更新されていた。
《※お弁当を作っているのは複数の料理人です。
メニューはすべて、誰かの顔を思い浮かべながら作っています。》
“誰かの顔”――
それは今日、わたしだったかもしれない。
めぐるは布団に入る前、
昨日もらった手書きのメモカードをもう一度読み返した。
「とんかつで、元気出してくださいね」
(……明日は、どんな“わたしのための弁当”が来るんだろう)
そんなことを考えながら、眠りについた。
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