第11話「お手紙、書いてもいいですか」
弁当を食べ終わったあと。
ふいに、胸がいっぱいになって泣きそうになることがある。
その日も、そうだった。
リコリス弁当が届くと、めぐるはまずふたを開けずに、匂いを嗅ぐ。
「……ん。今日は、味噌が主役だね」
ピリッとした香りが鼻先をくすぐる。
ふたを開ければ、ひき肉の回鍋肉が、つややかに照りながら鎮座していた。
脇を彩るのは、ツルっとした春雨サラダ、
そしてブロッコリーの緑がほっとさせるバターソテー。
完璧な彩り、完璧な構成。
静香にLINEすれば、「今週は脂質をちゃんと分散してる構成」
小夜に見せれば、「この春雨サラダ、絶対手間かかってる……」
れいに写真を送れば、「色味エグい。100映え」
だけど、今日は――
めぐるは一人で、そっと味わいたかった。
ご飯と回鍋肉の甘辛味噌。
春雨のごま油の香り。
ブロッコリーの、歯ごたえと温かさ。
食べ進めるほどに、体が“ほぐれていく”のがわかった。
そして、その夜。
ノートを開いためぐるは、いつもと違うことをしてみた。
ペンをとり、便箋にこう書いた。
「リコリスさんへ」
いつも、ありがとうございます。
毎日のごはんが、私の楽しみです。
食べているだけで、心がほどけるような、
“大丈夫だよ”って言ってもらえてるような、
そんな気持ちになります。
どうか、どうか、無理をせずに。
また、明日も、おいしいお弁当を。
大ファンより。
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