第10話「キャンパスの午後、そして弁当」

午前の講義が終わるチャイムが鳴った。


日向めぐるはノートを閉じ、ふぅと小さく息をついた。


「今日は、ちょっと外で食べようかな……」


スマホに、れいからのLINEが届いていた。


れい「中庭集合〜🍱今日のリコリス映えすぎ!」


中庭には、れい・静香・小夜・星南がもう揃っていた。

芝生の上に敷いたレジャーシートの真ん中で、それぞれの弁当が並ぶ。


「来た来た〜! めぐる、今日のメニューなに?」


「肉じゃが、焼売、酢の物って感じ」


「え、優勝じゃん」


遅れてやってきたのは――

悠木詩織。


「……こんにちは。あの、れいさんに誘われて……」


「あ、来たね! 詩織ちゃん! めぐるとは同じ学部だし、こっちこっち〜!」


めぐるが席を空けると、詩織はそっと腰を下ろした。


しばらくして、みんなでいっせいに

「いただきます」


肉じゃがは、甘辛い味がじゃがいもに染みていて、

思わずホッとする味。

酢の物の酸味が、それをリセットする。

焼売は小さいけど、ぎゅっと肉の旨みが詰まっていた。


星南:「焼売とご飯、やばない? もう無限ループよコレ」

静香:「この肉じゃが、牛脂でコク出してる。ポイント高い」

小夜:「だしの使い方、すっごい優しい……再現したい……」

詩織:「……この酢の物、好きかも。酸っぱすぎない」

れい:「もうカメラしまった。今日は味に集中する!」


会話が弾む中、ふとめぐるは思った。


(わたし、ずっと一人で食べてたけど……

 リコリスって、こんなふうに“誰かと分け合うごはん”だったんだ)


午後のキャンパス。

風がそよいで、弁当の匂いがふわりと舞った。


誰かが笑い、誰かが頷き、

誰かが「うまっ」と声を漏らす。


そんな風景の真ん中で、めぐるは心から思った。


「これが……今日一番のごちそうだね」

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