第七話「SNSに浮かぶ、今日の副菜たち」

「……これは、映える。」


日向めぐるは、届いたリコリス弁当を前に、静かに呟いた。

ふたを開けた瞬間に目に飛び込んでくる、黄金色のかにクリームコロッケ。

一口サイズのチリコンカンは、赤茶色のソースに豆がゴロゴロ。

その隣には、白菜が薄く透けて見えるさっぱりポン酢和え。


「え、これ……パンフレット?」


撮影用にでも使えそうな、美しさだった。


その瞬間――ドアが開いた。


「はい映えたー!! 今日のリコリス、めっちゃ映えたー!!」


七海れい、登場。


「かにクリームって言った? それ詐欺レベルで美味しそうじゃん!」


「いや、詐欺ではないけど……うん、美味しいよ、これは」


「チリコンカンある!? マジ!? SNSで映え飯要素2連発とか奇跡!」


れいは早速、弁当をスマホで斜めから、真上から、動画でパシャパシャ。


ふたりで食べ始める。


「うわっ……衣サックサク……中トロットロ……カニの旨味、ちゃんといる……」


「チリコンカン、思ったよりスパイスきいててうれしいかも」


「え、なに? 白菜ポン酢? この構成、映画祭に出せない?」


れいは満面の笑みで言った。


「なんかね、“ちゃんとおいしい”ってだけで、

 今日って日が、褒められた気がするの」


「……うん、わかるよ。わたしも、そんな気分で食べてる」


その夜。

れいのSNSには、こんなポストが流れた。


#今日のリコリス弁当

主役はかにクリームコロッケ。

チリコンカンが脇を固め、白菜が締める、完璧なキャスティング。

★★★★★

明日もきっと、生きていける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る