第六話「夜の部屋、サツマイモの匂い」

その日のリコリス弁当は、いつも以上に“遊び心”が効いていた。


「……え、今日の副菜、パスタ!?」


日向めぐるは、思わず声を上げた。

白いご飯と並ぶのは、なんと一口サイズのミートソースパスタ。

その横には、揚げたて感のあるエビカツが鎮座し、ふんわり甘いタルタル風ソースが添えられている。


人参のマリネが明るいオレンジ色で、弁当全体の彩りも華やかだった。


「これは……絶対れいが撮りたがるやつ」


思わずスマホで写真を撮ってから、ゆっくりと箸をとる。


その夜。

お弁当を食べ終え、湯を沸かしていた時のことだった。


トントン、と部屋の扉がノックされた。


「……はい?」


開けると、そこには隣に住む植村さんが立っていた。

淡いグレーのカーディガンを羽織り、手にはホイルに包まれた何かを持っている。


「ごめんね、夜に。さっきサツマイモ蒸かしたんだけど、食べきれなくて」


「えっ、いただけるんですか……?」


「うん。甘いの好きでしょ? 日向さん、よく“おいしそうな匂い”してるから」


部屋に戻り、まだ温かいサツマイモを一口かじる。


ほくほくで、甘くて、ふわっと優しい。

タルタルのエビカツとは違う、**素朴な“台所の味”**がした。


「……あぁ、なんか落ち着く」


めぐるはその夜、明日のメニューを調べずに寝た。

“ごはん”は、知ってる誰かと繋がるためにあるのかもしれない――

そんな気がしたから。

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