第二話「れい襲来。映えを求める女」

朝。

日向めぐるは、昨晩の“ポークカレー弁当”を思い出していた。


「……今日のリコリス、どんなのかな」


ワクワクが止まらない。

ふだんなら「まあ食べるか」だった朝が、今では「早く食べたい」に変わった。


ピンポーン、とインターホン。

出迎えたのは、昨日と同じ花のロゴの保冷バッグ。


中を開けると、ほんのり温かい湯気と共に、彩りの暴力が現れた。


「わっ……今日は、玉子焼き……!」


しっかり厚みのある玉子焼きに、ほうれん草や人参が巻き込まれ、断面がまるでアート。

隣には、ハムと野菜のチャプチェが艶々と光っている。

その下に、ビーンズサラダのパステルカラーが鮮やかに並ぶ。


「これは……写真、撮りたくなるやつだ……」


まさにそのとき――スマホにLINE。


れい「今から行く〜!映え写真撮らせろ〜!」


30分後。

七海れい、玄関に現る。


「でたー!その弁当まじやばい映えじゃん!窓際窓際!」


ずかずかと上がり込んでくると、さっそくスマホ片手に撮影体制。


「玉子焼きの断面アップ!コーンと豆、角度つけて!お箸、添えて!」


めぐるは呆れ顔で見つつ、テーブルを整える。


「ほんと、れいは変わらないね……」


「当たり前でしょ。これ投稿したら“いいね”来まくるわ!」


撮影がひと段落すると、ふたり並んでいただきます。


「……うまっ!」


れいが即座に声をあげる。


「なにこの玉子焼き……ふわっふわ。そぼろの旨味がガチで効いてる」


「チャプチェも、ちょっと甘くて、ご飯進むよね……」


「てかこの味噌汁、家よりうまい。うちの味噌、変えよかな……」


完食後。

れいはスマホをいじりながら言った。


「ねえ、この“リコリス”ってどこで見つけたん?」


「広告でたまたま見て、頼んでみたら当たりで」


「当たりどころじゃないわこれ……もうアカウント作った」


めぐるは、笑った。

食べるのが好きなれいに、またひとつ“推し”ができたみたいで、ちょっと嬉しかった。


「これさ、毎日がちょっと楽しくなるやつだね」


「そう。なんか、明日が楽しみになるの」


その日の夕方、れいのXにはこんな投稿が上がっていた。


#今日のリコリス弁当

彩り、栄養、味、全部100点。

めぐるナイス案件すぎた✨

明日も、食べて生きてこうっと。

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