第11話 手紙の宛先

 朝起きて、陰鬱な気分で筋トレする。

 腹筋をしながら、きょう学校へ行ったら、何をいえばいいのかと悶々と考えた。

 とりあえず、たかしに昨日の様子を詳しく聞いてみるのがいいのでは?

 ゆきちゃんに聞くのは勇気もクソもない。絶対にだめだ。

 そう考えがまとまった俺は、筋トレをスクワットに変えた。


「オー!!」


 スクワットをしながら気合を入れる。


「朝からうるさいよ!」


 すると、階下の台所から母ちゃんの怒鳴り声がきこえた。




「おはよう!」


 学校へつくと、一番最初にたかしをさがす。

 ゆきちゃんはまだ来ていなかった。

 たかしは俺の挨拶ですぐに俺の方へ顔を向けたので、すぐにたかしの席の方へと向かう。


「あ、あのさ」


 むー、どうやって切り出したらいいんだ。


「あ、ゴリラっち、ちょっと話がある」

「は? ああ」


 俺が何も切り出さないうちに、たかしから話があると言われた。俺は問答無用で階段の最上階の踊り場まで引っ張ってこられた。隣に屋上への扉があるが、施錠されている。だれもこない、踊り場だった。

 話、とは、十中八九きのうのゆきちゃんとのことだろう。

 ああ、やっぱりな。つきあうのか。ゆきちゃんと。

 そう妄想を巡らしながら、たかしと向き合った。

 俺はたかしが何か言う前に、先にお祝いの言葉をおくった。

 しあわせになれって感じで。


「おめでとう、たかし。ゆきちゃんと幸せにな」


 うっ。俺が泣きそうだ。


「おまえ、ゆきちゃんが好きなつるっとしたイケメンだし、俺はゴリラだからな。ゆきちゃんがお前を好きになるのも仕方がないよ」


 俺のゲジマユはきっとすごく寄ってるだろう。顔もくしゃりとゆがんだ。

 だが、たかしは目を丸くして、驚いた顔をした。


「は? お前なにいってんの」


 と心底あきれた声をだした。

 そして、急につらそうな顔をした。


「ごめん、ゴリラっち、じゃなくて、雁太。俺がいつもゴリラっちって中坊のときのあだ名でよんでたから、コンプレックスになったのか? 雁太は良い男だよ。それは、ゆきちゃんだってちゃんと知ってる」

「え?」

「もう二度と雁太のことゴリラって呼ばないから、今までゴリラっちって言ってたの、許してくれ。それと——」


 そう言って、たかしはズボンの尻ポケットから一通のカワイイ封筒の手紙をだした。


「これ、ゆきちゃんから、お前あてにって」

「え?」


 ちょっと、なんか話についていけなくなってる。

 この手紙は、きっと昨日ゆきちゃんがたかしに渡した手紙では?

 それが俺あて?


「昨日、体育館裏で、雁太に渡してくれって頼まれた」

「な、何でゆきちゃんは直接俺に渡してくれなかったんだ?」

「受け取ってもらえなかったら悲しいからって。立ち直れないカモって」


 まじめな顔をしてたかしは俺にゆきちゃんからの手紙を渡してくれた。


「言っとくけど、中はみてないから。じゃあ、俺は教室に戻る。お前らこそ、幸せになれよ」


 意味深にニヤリと笑って、たかしは去っていった。

 俺は手の中のかわいい封筒をじっと見て、そしてワタワタしながら封を手で切った。

 中に入っている便箋もファンシーなもので、妖精のようなゆきちゃんらしく、ひたすらその全てがかわいい。


 俺は、階段の踊り場で、夢中になってその手紙を読んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る