第9話 初めてみた

 校庭から、歌声が聞こえる。

 合唱部をバックにサクセスが、代表曲のピースという歌を踊りながら歌っている。


 いま、世界が不安定だから平和をねがったこの曲は、大ヒット中だった。


 平和、ピースは、30時間テレビのテーマにもなっていた。


 合唱部は、小野田淳も入ってたそうだ。

 だから、この企画が秘密裡に進んでいて、学校でもぬきうちで30時間テレビの収録にきたのだろう。


 俺は校庭まで走ると、サクセスと合唱部をかこむ輪の中に、ゆきちゃんをみつけた。


 とても幸せそうに小野田淳をみあげていて――

 瞳はジュンしか見えていない。俺なんか、見えてない。

 俺はゆきちゃんを斜め後ろから見ているだけで、その嬉しくて仕方がなくて、感情がはちきれそうな笑顔に胸がぎゅっと切なくなった。


 俺がイワシ、と嫉妬まじりに呼んでいたジュンは、ただキラキラした孔雀のような男ではなかった。無駄のない均整の取れた筋肉のついた、まさしくスターだった。考えれば、歌いながら踊るという神技をやっているんだから、納得もする。


 ゆきちゃんは、やっぱりああいうつるりとした肌のイケメンがいいんだろう。

 そう思うと、ゆきちゃんの隣に普通に立って一緒にジュンを見上げているたかしにも嫉妬した。

 あいつも容姿的なコンプレックスなんてないんだろうな。

 イケメンでもなく、筋肉でもジュンに負けている俺は、どうすればいいんだよ。


 校庭ではわー、と歓声が沸き、ピースを歌い踊り終わったサクセスがお辞儀をした。マイクをもったジュンがありがとう、と頭をかくんと下げる。


「聞いてくれてありがとう。30時間テレビもみてね」


 ジュンが一言話しただけで、校庭は主に女子たちの空が割れるような歓声がひびきわたった。


 ジュンが何か言うたびに、拍手や歓声がひびく。

 ゆきちゃんの目はきらめいて、ジュンを追っていて。

 感激のあまり泣きそうな感じでもある。


 せっかくゆきちゃんのあとを追ってきたけれど。

 ジュンとの圧倒的な差を突きつけられて。

 ゴリラな俺は、ゆきちゃんの近くへも行けなかった。


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