第一章

ソフィア

ーヴァイス邸ー


 フィンの1日は、ソフィアと貴族を学ぶ時間から始まる。フィンは産まれてから、引き取られるまでの12年間を孤児院で過ごしてきた。そのため、貴族についての教養きょうようは一切なかった。


 ソフィアは黒色のロングヘアーで、青色の瞳をもち、整った顔立ちをしている。フィンの2つ上のよわいである。そして冷静沈着れいせいちんちゃくで、なにより博識である。だから、フィンに貴族について教えている。


ソフィア:「まずはこの国の歴史からよ。この国は建国から何年経っているのかしら。」


フィン:「このアスカ帝国は、建国から70年余りと、周辺国家と比べればまだ建国から間もない国です。」


ソフィア:「えぇ、そうね。では、国の様子はどうかしら?」


フィン:「アスカ帝国は治安はよく、資源も豊富にあり豊かな国です。また、軍事力も他国に勝るものです。」


ソフィア:「そのとおりよ。前に教えたことを覚えているようで何よりだわ。」


 ソフィアは、感情が顔や声にほとんどでない。だが、少し嬉しそうに話しているように感じる。


ソフィア:「では次に、自分にとって都合の悪い存在があるとするわ。貴族ならばどうするべき?」


フィン:「えぇと、それは…その」


 フィンは言葉に詰まった。数ヶ月前に、貴族社会の仲間入りをした彼には難しい問いである。


ソフィア:「貴族である以上、結果を考慮こうりょしてあらゆる手段を用いなさい。それはたとえ、誰かが不幸になるとしてもよ。」


フィン:「……でも、誰かが不幸になるのは嫌です……」


 フィンは賢い子であるが、純粋で優しい子でもある。そして、孤児院で辛い環境を過ごしてきた身。そんな彼にとって、貴族の黒い考え方は納得がいかないであろう。


 そんなフィンにソフィアは、先程と同じ声色で話すが、瞳の奥には強い意志が感じられる。


ソフィア:「あなたは優しい子ね。でもね、フィンみたいな人は誰かに利用されるだけなの。”お姉ちゃんたち”は、そんな未来は見たくないの。だから、しっかりと貴族を学ぶのよ。」


 フィンは、ソフィアの言葉を心に受け止めた。自分のために、教えてくれていたのだと気がついたのだ。彼は心に決めるのであった。彼女の言葉が正しくて、それをしっかりと学ぶのだと。


 フィンは気がつかなかった。ソフィアの言葉には少し”重み”があったのだと。しかも、なにか違う重みだったと。

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