第12話 生産者の影響力と王族の接近

工房ができて、はや数ヶ月。

ミオの工房は、王都の「風薫る丘」に、完全に根を張ったんや。季節はもう、工房の庭に植えた『輝光桜』が満開の時期やな。花びらが風に舞って、工房の周りを淡いピンク色に染めとる。

『魔力製氷機』の評判は王都中に広まり、貴族の館や大通りのお店でも、冷たい飲み物や氷菓子が当たり前になった。真夏の午後は、冷たいデザートを求めて行列ができるほどや。

『アルティの食パン』は、冒険者ギルドだけでなく、王都の一般市民にも大人気や。

「アルティの食パン、食べたら元気出るらしいで!」「あそこのパン食べたら、もう他のパンは食べられへんわ」

そんな声が、王都のあちこちで聞こえてくる。王都のパン屋の売上が激減したとか、しないとか。

おかげで、バルトロはんのゴールドアクス商会も、ウハウハみたいやな。定期的に工房に挨拶に来ては、「ミオ様!この度は誠に!」って、頭を下げていく。

(えぇ~、ほんま、律儀な人やなぁ……って、うちが儲けさせてるんやから、当たり前か!)


工房には、毎日ひっきりなしに依頼が殺到した。

「ミオ様!この薬を!我が病弱な娘を救いたく!」「この古文書を翻訳する魔道具を開発してくれ!」「新しい農具を!もっと効率的なものを!」

ひっきりなしにギルドからの使いがやってくる。彼らの目は、どれもうちの能力に期待で輝いてる。まるで、子犬がご主人様を見上げるみたいや。

(えぇ~、また依頼?せっかく工房作ったのに、引きこもりたいのに、全然引きこもらせてくれへんやん!)

ミオは、山積みの依頼書を見つめて、大きなため息をついた。その依頼書の山は、うちの背丈よりも高うなってたわ。

「もう、こんなに依頼来たら、寝る時間ないやん……」

ミオは、ふかふかのソファに埋もれて、資材スライムたちをモフモフしながらため息をつく。

「ぷるる……?」

スライムたちが、心配そうにミオの顔を覗き込む。水色のスライムが、冷たい体を頬に押し付けてくれた。

(あー、癒されるわぁ……)


ルナリア姫も、毎日工房にやってきて、ミオが作る新しいスイーツに目を輝かせとる。

「ミオよ!今日の『七色ゼリー』も最高だ!この輝き、魔族の里にはない色だ!」「この甘美さ、まさに至宝!」

ルナリアが、ゼリーを一口食べるたびに、恍惚とした表情で身をよじる。その姿は、まるで至福の夢を見てるみたいや。

ミオは、そんなルナリアの熱烈な称賛にも、「えぇ~、またそんな大袈裟な~」って、慣れてきたみたいやな。今ではもう、ルナリアが工房に来るのが、ちょっと楽しみになっとる。

(ほんま、この子も可愛いなぁ。魔族やけど、魔族らしからぬ純粋さやで)


そんなある日。

工房の自動検知システムが、いつもとは違う、厳重な警備隊の接近を知らせた。工房の結界が、微かに振動する。

「えぇ~!?また誰やろ?もしかして、バルトロはんがなんか企んどるんかな!?いや、もう契約済んでるのに?まさか、今度は王都の騎士団とか!?」

ミオは、慌ててソファの陰に身を隠そうとした。引きこもりたいミオにとって、突然の来客は最大の敵や。特に、強そうな連中はお断りや。

やけど、工房の扉が開いて現れたんは、王国の兵士たちやった。彼らは整然と並び、工房の入り口を固める。

そして、その中央には、見た目も麗しい、若き王子が立っていた。

王国のアルフレッド王子や。彼の金色の髪は、陽光を受けて輝き、その瞳は知性に満ちていた。

彼の横には、同じく王族らしい、可憐な少女が立っている。

王女リリアーナや。彼女の顔は少し青白いが、その瞳には、ミオの工房への好奇心が宿っていた。


アルフレッド王子は、工房の中を見回すと、その清潔さと、珍しい魔導具の数々に目を丸くした。彼の視線は、魔法風呂や魔法水洗トイレで止まり、その度に驚きで小さく息を漏らす。

資材スライムたちは、王族の来訪に警戒したのか、コロコロと物陰に隠れたり、体を硬くしたりしとる。まるで石像みたいや。

ミオが「大丈夫だよ、怖くないから」と小さく声をかけると、安心したみたいに、少しだけ体を緩めた。警戒しつつも、彼らはミオの言葉を信じるんやな。


「そなたが、『眠りの魔女』ミオ殿か」

アルフレッド王子が、穏やかな声でミオに話しかけた。その声には、威厳と同時に、どこか親しみが込められている。

「この工房の噂はかねがね聞いていたが、まさかこれほどとは……。まさか、工房の中で焼きたてのパンの匂いがするとはな。それに、この快適な室温は……」

王子の視線は、ミオの手元にある、食べかけの『魔力プリン』に釘付けや。プリンからは、甘い香りがふんわりと漂う。

(えぇ~、バレてるし、プリン見られてるし!ていうか、魔力製氷機や空調のことまで気づくとか、この王子、賢すぎひん!?)

ミオは、内心で悲鳴を上げた。プリンを隠そうとするが、もう遅い。


「ミオ殿。実は、そなたに頼みたいことがある」

アルフレッド王子は、真剣な表情で言った。彼の顔から、冗談めいた表情が消え失せる。

彼の隣に立つリリアーナ王女が、弱々しく咳をする。その顔は青白い。唇には血の気がなく、見るからに体調が悪そうや。

「私の妹、リリアーナが、幼い頃から不治の病に伏せている。多くの医者や魔法使いが診たが、誰も治せなかった……」

王子の声には、深い悲しみが滲んでいた。その瞳には、妹への深い愛情が宿っている。

「だが、そなたが作ったという『奇跡の回復薬』の噂を聞いた。王都で病に苦しむ者が、アルティ村の『虹色野菜』を食べたところ、劇的に回復したと報告があったのだ。どうか、我が妹を救ってはくれぬか」

アルフレッド王子は、深々と頭を下げた。王族が、一介の生産者に頭を下げるなんて、異例中の異例や。その姿は、王としてのプライドを捨て、妹の命を救うためなら何でもするという強い意志の表れやった。


ミオは、リリアーナ王女の顔を見つめた。

幼くて、か弱い、自分と同じくらいの年頃の少女。

その瞳には、諦めと、かすかな希望が入り混じっていた。

(うぅ……可愛い子が困ってるのは、放っておけへんやん……。それに、この子、ちょっとフィオナに似てるかも……)

ミオは、王族との関わりが増えることに内心「また面倒事が……」と焦りつつも、可愛い王女の、そしてフィオナに似た瞳に、抗うことがでけへんかった。

「……しゃーないなぁ。病気の子、放っとかれへんわ。最高の薬、作ってみますわ」

ミオの言葉に、アルフレッド王子は顔を輝かせた。その表情は、希望に満ちている。

「おお!感謝する!ミオ殿!我が王家は、そなたの恩を忘れない!」

彼は、深く頭を下げ、リリアーナ王女もミオに小さく頭を下げた。

リリアーナの顔に、わずかながらの赤みが差したように見えた。


この依頼は、ミオの『究極の生産』能力が、国の未来を変えうると見抜いたアルフレッド王子にとって、大きな賭けやったんや。

彼の目には、ミオの能力によって、王国の未来が大きく変わるという確信が宿っていた。

ミオの工房は、もはや単なる引きこもり場所ではなく、王都の中心となりつつあったんやな。

王都の空は、今日も雲一つない青空やった。


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次回予告


工房に現れたのは、まさかの王族!?

病弱な王女リリアーナを救うため、うちのチート生産が再び火を吹くんやろか!?

王族との関わりで、うちの引きこもりライフは、さらに遠のいてまうの!?

次回、チート生産? まさかの農奴スタート! でも私、寝落ちする系魔女なんですけど!?


第13話 王女リリアーナと『奇跡の癒やし』


お楽しみに!

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