第8話 工房設立の第一歩と「暁の剣」の決意

『魔力製氷機』の衝撃から、ギルドのロビーは興奮冷めやらぬ状態やったわ。

バルトロはんも、さっきまでの嫌味な態度が嘘みたいに、うちを丁重に扱ってくれる。彼の顔には、脂汗が滲んどる。

「ミオ殿!いや、ミオ様!この『魔力製氷機』の製造権、ぜひ我がゴールドアクス商会に!破格の条件で契約させていただけませぬか!」

彼の声は、懇願するように響き渡る。

他の商人たちも、我先にと契約を迫ってくる。口々に自社の名を叫び、名刺代わりの金貨袋を差し出す者までいた。

「私に!いや、うちの商会に!最高の素材を用意します!」

そんな喧騒に、ミオはちょっと面倒くさそうな顔をした。

(えぇ~、これ全部相手するん?一人じゃ無理やん。引きこもりたいうちにとって、一番のストレスやで……)

ロビーの真ん中で、金色のスライムが、商人の差し出した金貨袋を好奇心旺盛にモグモグしようとして、ミオが慌てて止める場面もあった。


「静粛に!」

ギルド長らしき、落ち着いた声が響いた。

見れば、奥の部屋から、白髪の老紳士がゆっくりと出てきた。彼が、この商業ギルドのギルド長、**ガルベルト**や。

「皆の者、秩序を乱すでない。ミオ殿の意向を最優先する。公平な入札を行い、正式な契約を結ぶべきだ」

彼の言葉には、揺るぎない権威が宿っていた。

(お、ギルド長、登場か。これはテンプレ通り、有能なキャラやな!これでめんどくさい交渉は避けられるで!)


数時間後。

ギルド長の仲介のもと、無事に『魔力製氷機』の製造契約が成立した。

王都の夏を快適にする「画期的な魔導具」として、ゴールドアクス商会が製造販売権を独占する形になったんや。その代わり、ミオには莫大な契約金と、製造された製氷機一台あたりのロイヤリティが約束された。

高額な契約金が、うちのアイテムボックスに、金貨となってザクザクと収納されていく。金色の資材スライムが、金貨の感触に「ぷるる~♪」と嬉しそうに揺れる。

(うっひょー!これ、全部うちのお金!?前世の給料、何年分やろ?もう一生働かんでもええんちゃう!?)

手が震える。これは眠気とは違う、純粋な興奮や!

アイテムボックスの中には、金貨の山が輝いている。

これで、工房建設の夢が、いよいよ現実になるで!

(どこに建てようかなぁ。王都の喧騒から離れて、静かで、でも素材は豊富に手に入るとこがいいなぁ……)

ミオは、もう既に工房の設計図を脳内で描き始めていた。


契約を終え、ほくほく顔で商業ギルドを出る。そのまま冒険者ギルドへ向かった。

冒険者ギルドのロビーも、商業ギルドとはまた違う熱気に包まれていた。

汗と、酒と、魔物の血の匂いが混じり合う。

「暁の剣」パーティのライオス、シエラ、フィオナが、依頼掲示板の前で話し合っているのが見えた。

彼らの装備は、相変わらず手入れはされているものの、使い込まれてボロボロだ。


「よぉ、お疲れさん!稼ぎはどうやった?」

ライオスが、うちの顔を見て笑顔で声をかけてくれた。彼の目は、期待に輝いている。

「ふふふ……それがな、ライオスはん」

うちは、アイテムボックスから金貨の袋を一つ取り出して、軽く投げた。

金貨の袋が、チャリン、と音を立ててライオスの手に収まる。

「これは……金貨!?しかも、こんな大量に!?」

ライオスの目が、真ん丸になる。信じられないといった表情だ。

シエラも、普段の冷静さを失って、驚いた顔で金貨の袋を見つめている。彼女の口元が、わずかに開いている。

フィオナは、うちの顔を見て、安心したように微笑んだ。そして、私にそっと寄り添ってくれる。


「すごいですね、ミオさん!でも、何があったんですか?」

フィオナが尋ねる。


うちは、商業ギルドでの出来事を話したった。

『魔力製氷機』を作ったら、みんながえらい騒いで、高額な契約になったこと。

そして、その収益で、王都郊外「風薫る丘」に、自分だけの工房を建てるつもりやいうこと。

「これで、うちの引きこもりライフも、いよいよ実現に近づくわ!」

目を輝かせながらそう言うと、ライオスたちは顔を見合わせた。


「工房……ですか」

ライオスが、真剣な表情で言った。

「ミオさんの作ったパンのおかげで、俺たちの評価も上がってるんです。他の冒険者たちも、『アルティの食パンがあれば、どんなダンジョンも怖くない』って、噂してるんですよ」

フィオナも、嬉しそうに続ける。

「そうですよ、ミオさんのパンは、もう冒険者の間で大人気なんです!ギルドでも、『あのパンを売ってくれ』って言ってる人がいっぱいいます!」

シエラは無言やけど、頷いている。彼女の表情は、どこか思案げだ。

(この子の能力があれば、俺たちのパーティも、もっと強くなれる……)

シエラの頭の中で、新たな野望が芽生える。


「ミオさんが工房を建てるなら……俺たちも手伝います!」

ライオスが、力強く宣言した。

「俺たち、『暁の剣』は、ミオさんの護衛だけやない。これからは、ミオさんの工房の専属冒険者として、資材調達も魔物討伐も、何でも手伝わせてもらいます!」

彼の目には、揺るぎない決意が宿っとった。その言葉には、今まで彼が経験してきた苦労と、ミオへの深い信頼が込められている。

(えぇ!?専属冒険者!?めっちゃ嬉しいけど、これって引きこもりライフからさらに遠ざかってるんちゃうん!?)

うちの頭の中では、喜びと困惑が入り混じっていた。

でも、頼りになる仲間ができるのは、心強い。

「ま、まあ、助かるわぁ……」

ミオは、照れながらそう答えた。

これで、うちの工房設立の第一歩が、いよいよ踏み出されるんや。

王都での新しい生活が、今、始まるんやなぁ。


---


次回予告


いよいよ、うちの夢の工房建設が始まるで!

資材スライムたちも大活躍、快適生活魔導具が次々と誕生や!

王都の職人たちも、うちのチート生産に驚くやろなぁ?

でも、引きこもりライフは、まだまだ遠いんかなぁ……。

次回、チート生産? まさかの農奴スタート! でも私、寝落ちする系魔女なんですけど!?


第9話 夢の工房建設!『快適生活魔導具』の誕生


お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る