第7話 王都の証明!『魔力製氷機』の衝撃

商業ギルドのロビーは、真夏にもかかわらず、どこか冷ややかな空気に満ちとったわ。

ミオの「ほな、今ここで、お見せしましょうか?」という言葉に、受付の女性は呆れ顔。彼女の眉間の皺がさらに深うなったように見える。

老舗商会「ゴールドアクス」の代表、バルトロは、鼻で笑うてた。その笑い声は、ロビーの高い天井に響き渡る。


「ほう、言うじゃないか。では、何を作る?この時期に、何か面白いものが作れるのかね?」

バルトロが、腕を組みながらミオを値踏みする。その視線は、ミオを「ただの子供」と見とるみたいや。彼の傍らに控える小太りな商人たちも、面白そうにニヤニヤしとる。


「せやなぁ……この時期に最高のものを、ですな」

ミオは、にっこり笑う。

(夏やん?やったら、アレしかないやろ!前世の夏、毎日コンビニの氷菓子で生きとった記憶が蘇るで……!)

ミオは、周囲を見回した。

ギルドのロビーには、きらびやかな衣装をまとった商人たちが、高価な魔石や、珍しい素材を品定めしとる。壁には、魔力灯が輝き、空調用の魔導具が心地ええ風を送ってるはずやのに、どこか熱気がこもるような気がしたんや。


「では、失礼します」

ミオは、胸元に下げていたアイテムボックスの紐をそっと引いた。

「スライムはん、ちょっと手伝うてもろてもええ?」

小さく呟くと、アイテムボックスの影から、ひょこり、小さな水色の資材スライムが顔を出した。

「ぷる?」

スライムが、きょとんとしたみたいに首を傾げる。その丸い瞳が、ミオを見上げる。


「なんや、あの小汚い粘液は!?」

バルトロが、眉をひそめる。彼の声には、明らかな嫌悪感が滲んどる。

受付の女性も、嫌そうな顔でスライムから目を逸らした。ロビーの他の商人たちも、好奇の目と同時に、軽蔑の視線を向けてくる。


「かいらしいやろ?うちの相棒なんですわ」

ミオは、周囲の視線なんか気にせんと、スライムを撫でてやった。

スライムは嬉しそうに「ぷるる~♪」と鳴る。まるで猫が喉を鳴らすみたいや。


ミオは、ロビーの隅にあった、ただの水を張った大きな水盤に目をやった。水はぬるくて、藻が浮いとる。

「バルトロはん、この水、触って見てください」

ミオの言葉に、バルトロは不審そうな顔で水に手を伸ばす。彼の指先が、ぬるい水に触れた。


その瞬間、ミオは、スライムにそっと耳打ちした。

「ほな、スライムはん、この水、キンキンに冷やしてや。最高のやつ頼むで」

「ぷるるるるるーっ!!」

水色のスライムが、ミオの指示に応えるかのように、急に活発に跳ね回り、水盤の中に飛び込んだ。その体から、微かな光が放たれる。


その瞬間、水盤の水が、みるみるうちに凍り始めた。

水面から白い湯気が立ち上り、一瞬で薄い氷が張る。

氷はみるみる厚うなって、やがて水盤全体が、透明な氷の塊へと変化する。

そして、その氷の中から、ひんやりとした冷気がロビー全体に広がっていった。空気が一瞬にして入れ替わる。

真夏にもかかわらず、その場にいた商人たちは、思わず身震いする。彼らの口から、白い息が漏れた。


「な、なんだと!?一瞬で、こんなにも完璧な氷を……!?」

バルトロは、目を見開いて絶句した。彼の顔は、さっきまでの嘲りが嘘みたいに引き攣っとる。

受付の女性も、目を丸くして、呆然とミオを見つめている。彼女の開いた口から、ハエでも入るんちゃうかと思うくらいやったわ。


「これが、うちの『魔力製氷機』ですわ」

ミオは、得意げに言った。

「もちろん、素材は水と、うちの魔力。あとは、スライムはんの協力あってこそ、ですけどな」

水色のスライムは、水盤の底で、得意げに「ぷるぷる~♪」と揺れている。どうやら、水中の微細な魔力を吸収し、それを氷結エネルギーに変換して放出する能力があるらしい。

(まあ、今思いついた適当な仕組みやけど、なんとなくうまくいったし、ええか!ていうか、こんな簡単に氷作れるんやったら、前世の夏も快適やったんやろうなぁ……)

ミオは、冷気で少し震えながら、心の中でつぶやいた。


「こ、これは、国家宝具級の魔導具ではないか!?」

バルトロが、震える声で叫んだ。彼の声は、歓喜と驚きで上擦っている。

瞬時に、ロビーの商人たちがミオの周りに集まってくる。

「私に売ってくれ!」「いくらだ!?」「この製氷機の製造権を!」

熱狂的な声が飛び交う。彼らの目は、ミオではなく、ただの氷と化した水盤に釘付けやった。


「えぇ~?いらんって言わはったやん……」

ミオは、困ったように首を傾げた。

(まあ、この反応が正解なんやろけど……めんどくさいなぁ。これでまた、引きこもりライフが遠のく予感しかしーひんわ)

この日、王都の商業ギルドの常識は、15歳の少女によって、さくっと塗り替えられたんや。

ミオの『魔力製氷機』の登場は、王都の食料保存、医療、そして貴族たちの嗜好品市場に、小さな、しかし確実な革命の兆しをもたらしたんや。

王都の夏が、この日から少しだけ涼しくなったのは、誰もが知るところやな。


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次回予告


王都の商業ギルドを驚かせたうちの生産能力!

莫大な契約金を手に入れて、いよいよ工房建設の夢が現実になるんやろか!?

そして、冒険者パーティ「暁の剣」は、うちのパンでどこまで強くなるんやろ!?

うちの引きこもり生活への道は、遠いんかなぁ?

次回、チート生産? まさかの農奴スタート! でも私、寝落ちする系魔女なんですけど!?


第8話 工房設立の第一歩と「暁の剣」の決意


お楽しみに!

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