ミオ×スラ冒険譚 ーくってつくってくいまくるー
五平
第1話 社畜転生!まさかの農奴生活と資材スライムの誕生
目の奥が焼けるように痛い。
デスクの液晶が二重にぶれて、気づけば意識が真っ暗に沈んだ。
――目覚めると、真夏の陽射しと土埃の匂いに満ちた見知らぬ世界やった。
「は……?」
視界に映るのは裸足に粗末な服。
鍬を握り、ひび割れた地面を必死に耕す少女たち。
その中に、同じようにボロ布を纏った自分がいた。
(……えっ、農奴!?)
社畜でいるより酷いわ。
努力の未来もなく、ただ搾取され尽くすための底辺生活。
意識が遠のきそうになったその時――
(ああ……もう全部、ぶっ壊すぐらい強い武器つくりたい…。)
その小さな呟きが、空気を震わせた。
瞬間、頭蓋の奥が割れるように熱い。
目の前のボロ鍬が淡い光に包まれ、無数の魔紋が浮かび上がる。
それを握る手が勝手に動き――
ゴオオオォッッッ……
土が鳴動した。
畑全体が波打ち、地面から真紅の花が無数に咲き乱れ、空気が甘くなる。
「――な、なにこれ……」
その瞬間、ドクン、と心臓が跳ねて――視界が急激に暗転した。
【資材スライム誕生シーン】
気絶したミオの傍ら、魔力に染まった大地がぬるりと蠢いた。
ゆっくりと、ぷるん、と音を立てて、粘土のような何かが芽吹く。
小さな土色の生き物。
丸い体を左右にくゆらせ、「ぷる……ぷる……」と震えると、やがて小さな黒い目が開き、きょとんとあたりを見回した。
それは、奇妙で――けれど、どうしようもなく愛らしかった。
数時間後。
「んん……よー寝たわぁ……」
私は、寝返りを打って、うっすら目を開けた。
泥だらけの服が身体に張り付いてて、最悪や。
「ふぁ~あ……ねむ…い……」
体を起こす。
「え、あ、ごめん……」
思わず謝った。
私を呼んだ子供は、泥だらけの鍬を片手に、小さくため息をついた。
「どうせまた、ろくに働かないんだろ……」
うぅ、なんかごめんやで……でも、まだ頭がボーッとするねん。
これが「究極の生産」能力の代償らしいわ。
ん?
なんや、足元になんかおる。
ちっちゃくて、土色で、ぷるぷる動いとる……。
「なんやこれ? スライム? かいらしいなぁ……」
私が指でつついてみたら、スライムは「ぷるん!」って跳ねて、私の指をぺろぺろ舐め始めた。
その瞬間、指先にまとわりついてた土の汚れが、ツルンって消えたんや。
「え、なにこれ!? すごいやん!?」
私が目を輝かせたら、スライムは「ぷるぷる~♪」って嬉しそうに跳ねた。
「おい、新入り!いつまで寝てるんだ!早く働け!」
頭の奥で、そんな声が聞こえた。
そうやった。
私、農奴やったわ。
畑を見たら、私が鍬を振るったところが、黒々とした豊かな土壌に変わっとる。
ゴロゴロ転がってた石も、まるで砕けるように土に混じり合ったみたいや。
「これ……もしかして、うちが作ったん?」
頭の中に、もう一度声が響いた。
「『究極の生産』能力が発現しました。あらゆる素材から、あらゆるものを完璧な品質で生産可能です。ただし、想像力を酷使すると、極度の眠気に襲われます」
キタコレ!
やっぱりね!
チートなしの異世界転生とか、死活問題にもほどがあるやん!
しかも「究極の生産」!?
これで、この農奴生活ともおさらばできるで!
「これがチート能力か……某ゲームでいう“全部入りの職業セット”って感じやな。生産職系、最高やん!これで現代文明の利器を再現しまくって、悠々自適の引きこもりライフ…いけるで!」
「よっしゃー!」
思わず叫んだ私に、農奴の子供たちが一斉に冷たい視線を向けた。
「あのさぁ、はしゃいでる場合じゃないでしょ。これ、やらなきゃ飯抜きだよ?」
「え、あ、ごめん……」
と、また謝った。
とりあえず、鍬らしきものを受け取り、畑に向かう。
重い。
ひ弱なこの身体には、肉体労働とか無理やねんけど。
(あ、そうか、生産できるんやったな)
そうや、もう一回作ってみよ!
私は、頭の中で、現代の効率的な農業システムを思い描いた。
土壌の成分を分析する。
この土地に最適な栄養をピンポイントで配合した、超効率型肥料を生成する。
さらに、硬い土を楽々耕すための、魔法の鍬。
イメージは、未来的な農業機械と、ドワーフの匠の技を融合させたような……。
イメージが明確になるほど、頭の中がクリアになっていく感覚がした。
まるで設計図が脳裏に浮かび上がり、組み立てられていくようだ。
体が勝手に動く。
近くにあったボロい鍬を手に取った。
瞬時に光を放ち、柄には精巧な魔法陣が刻まれ、鍬先は見たこともない合金製に変化した。
「よし、今日からお前は、『
私は、新しい鍬を土に突き立てる。
ザクリ。
驚くほど軽い力で、鍬が土深く食い込んだ。
その瞬間、鍬から温かい光が畑全体に広がった。
土はみるみるうちに柔らかくなり、黒々とした豊かな土壌へと変化していく。
ゴロゴロ転がっていた石は、まるで砕けるように土に混じり合った。
わずか数秒。
目の前の畑の土が、完全に生まれ変わったのだ。
「これなら、どんな作物でも育つでしょ。最高の畑やわぁ」
思わず、にやりと笑みがこぼれた。
完璧。
最高の出来栄えやん。
満足感に浸った。
完成した鍬を握りしめた途端、猛烈な睡魔が襲ってきた。
脳の奥から、頭のてっぺんから、瞼の裏から、重い眠気が押し寄せてくる。
これは……危険なレベルの眠気や。
「ふぁ~あ……ねむ…い……」
そのまま私は、畑のど真ん中で、泥まみれのまま意識を手放した。
超生産モード中にまぶたが勝手に閉じていく感覚が、初めての体験やったわ。
「おい!また寝てるぞ、新入り!」
「あいつ、マジで使えねぇな!奇跡の土って言ってたけど、どうせまぐれやろ!」
私を呼んだ子供の声が、酷く遠くで聞こえた。
意識が薄れていく中、私は思った。
この泥だらけの農奴生活から、絶対抜け出してやる。
絶対に!
そして、誰もが羨むような、最高の工房で、のんびり引きこもってやるんやからな!
そんな決意を胸に、私は泥のついた顔のまま、深い夢を見た。
夢の中で、私は、ピカピカの最新型魔法風呂に浸かっていた。
---
次回予告
畑のど真ん中で爆睡したうち。
やけど、眠りから覚めたら、目の前の畑がまさかの大変貌やん!?
村中が騒然とする中、うちの元に現れたんは、金欠に悩むイケメン冒険者パーティ!?
え、護衛?王都まで?
まさかうちのチート能力が、こんな形で利用されるなんて!
さあ、引きこもりたいうちの異世界生活は、どうなるんやろ!?
第2話 奇跡の野菜と資材スライムの隠れた仕事
お楽しみに!
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