第23話:ポジショントーク
「……なんだと」
「図星かしら。まぁ、分かるわ、その理解の及ばない感じはね」
「貴様……」
「でも、せっかく芹様に助けてもらったのだから、感謝して助けられておきなさい」
「っ」
先ほどまで穏やかに見えたタビラコという女の眼が、一気に真剣なものになった。
一瞬でも気を抜いたら、私は殺されると、理解させられる。
「ちょっとだけ、遊んであげるわ」
「!?」
「ちょっとだけ、ね」
気づいた時にはもう遅かった。
既に私の喉元には、短刀が突き付けられていた。
「あら、全然ね。騎士団長ってこの程度かしら」
「……」
私は『お前の動きがおかしいだけだ』、と思わず叫びたくなった。
「……」
「……」
お互いに無言の時間が、永遠に思えるほどに続いた。そしてそれを打ち破ったのは我々ではなかった。
「──あ、エレンさん。調子はどうですか?」
「調子はどうですかって……それあってるのか?」
セリと、スズシロ、そして3人の男たちがやってきたのだ。
「……っ!」
「え?」
その瞬間タビラコが膝を折り頭を下げた。その先にはセリがいる。
「
「……いえ、私は芹様の部下であり、腕です。頭を下げるのは当たり前のことです」
「そうですか………」
あの化け物が頭を下げたのにも驚いたが、改めてこの場にやってきた面子を見ると、さらに冷や汗が流れた。
セリ含め男4人全員そこそこ体格が良いのだが、特に金髪の男はそこの中でも一番「動けそう」に見える。おそらく近接戦闘タイプではないか。
……ダメだ。これは……終わった。
「殺せ。情報は吐かない」
***
人間というものは、本当によく分からないものです。
一生懸命に説明しても、誤解を生んでしまうし、そもそも固定観念が理解の邪魔をする。
私は未だ、人の感情を理解することができていない。
もう生まれてからかなり経ちますが、それでも理解できない。
まぁ、幸い今回は解決できそうなわけですが。
「エレンさん、貴方は騙されています。これをご覧ください」
「……?」
私は動かないエレンの額に手を当てた。
そのまま、私は『事実』の映像を送りこむ。
「え……」
「分かりますか」
「う……嘘」
「これが真実です」
エレンは項垂れた。多少はショックを受けるのかもしれないが、これで良い。これで解決するなら、まだ悪いことではないのだから。
「……記憶を流し込んだのか?」
「ええ。鮮明に。重要な背景情報も全て」
「大丈夫なのか?」
「多少手荒ではありましたが、彼女なら問題ないでしょう。肉体的にも強いですし、念のためさっき
彼はいつでも、一人一人を見ている。
「ひとまずはこれで終わりです。後は、私が向き合うだけです」
***
「──というわけでですね、私たちが勝手に病院を建設したり、勝手にイテラの村を再開発したりしているこのモード王国なのですが、どうやら私たちのことを良く思わなくなってきている貴族を、
再び石山病院会議室にて。
ちなみに、エレンには言っていないが、ここは異世界支部ではなく本部の病院であり、エレンがいる世界とは別の場所にある。
「あの団体か……」
「最近大人しくしているのかと思っていましたけど、そうでもないんですね」
「あ、あの……すみません。あの団体というのは……」
芹の言葉に反応を示す御形と繁縷に対し、蘿蔔は少し困惑気味だった。
「あ、そうでしたね。
思い出したように、芹は会議室の棚から数枚の資料を取り出した。
資料には、『持ち出し禁止』と赤文字で書かれていた。
「せっかくなので、読んでみてください」
「あ……分かりました」
「………え」
そして驚愕の表情を浮かべる。
──
『旧神権保守教』
代表は第3世界・
教義は、従来の神による秩序のある統治を史上とするというもの。旧最高神の復活を目論む。
──
「これは機密情報ですから、外で話すことはやめてください。まぁ、
「…………もちろんです」
「それで本題に戻りますが──今回、貴族の裏にその団体がいることが判明した、ということです。私を狙った男の記憶を『真実の鏡』で抜き取りました。使い捨てなのでエコではありませんね」
スクリーンに芹は何枚かの写真を写した。
「モード王国にできた私たちの新しい病院は中心部からは少し離れています。そして学校も隣にありますから、同様です。しかし、運営を始めてから数日して、何度も王国の人間が偵察に来ているようです」
スクリーンには、杖を持った2人組の姿が全ての写真に映り込んでいた。
「最初から王国は目をつけていたようですね。まぁ、それなら代表の私を殺そうとしてきたのも頷けます。私を殺しにきたこと自体は直接あの団体と関係しているわけではないでしょう」
芹はスクリーンに映る画像を入れ替えた。
そこにはこのモード王国の貴族たちの顔が映った写真が載せられていた。
「全員ではないのは、あくまで私を狙った男の記憶から入手した写真だからです。この他の貴族が私たちを狙っているかはまだ分かりません」
「なるほど……で、あいつらは?」
「この貴族たちの1人、マナス侯爵のバックに主についているようです。マナスさんはこの人ですね」
芹はスクリーン上の金髪の青年を指さした。
まだ若く、20代中ごろの比較的体格の良い人間だった。
「どうやら、私たちが倒してしまった『王』を信仰する宗教の信者のようです。この宗教にはやはり位の高い人間しか入れないようで、死後の苦しみから解放されようとしているらしいです」
「なるほど……『王』への信仰経由ってことか」
「はい。要するに、現在はマナスさんの背後にいますが、『王』を信仰する宗教の信者は全員あの団体に利用される可能性があると言って良いでしょう」
「はぁ……」
御形は「ここでこんな繋がり方をするのか……」と、面倒で頭を抱えた。
「教育や医療を普及していくにあたって、この人たちは確実に邪魔にはなります。ですから、この世界に悪影響を与えない程度に、対処していくしかないでしょう。あの団体が利用しているとは言っても、私たちのことが気に食わないこと自体は変わりませんから」
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