第16話:非全知全能
「ところで
「……え?いや……えっ……と、とんでもないです!!むしろ私が出しますから!」
「そんなこと言わずに。実はですね、さっき久しぶりに食事をしたのですが、美味しくてですね。よかったら蘿蔔くんも、と思いました」
「久し……ぶり?」
今この人はなんて言った?
久しぶりに、『食事をした』と言ったのか?
聞き間違いじゃない。
私が
「……芹様、最後に食事をしたのはいつですか?」
「?先程ですよ」
「そうではありません。その前です」
「そうですね………えー……ああ、そうです。
「そうです……か」
そういえば、この人はしばらく自らの家に帰っていない。家では栄養を無理やり取らせるためにお連れ合いが食事を用意しているそうですが……。
芹様レベルになれば、確かに食事をしなくても生きてはいけるのでしょうが……このままでは……
「行きましょう。是非」
「そうですか。では行きましょう」
***
「……やれやれ」
きっと魔改造されているのだろうとは思っていたが、これほどとは。
私の目の前にあるのは、私が把握していたイテラの村ではない。
道が整備され、快適で、それでいて昔ながらの良さが残っている。もはやこの再開発を計画した人間を国で雇いたいくらいだ。
「……だがまぁ、それはそれとして」
私にはやることがある。
私は最終的にあのイシヤマという男を殺さなくてはならないのだ。
「………」
私は姿が見えないように自身に隠蔽の魔法をかけた。そして慎重に村の中で偵察を行う。
(……あれは)
私の目線上に、噴水とその脇のベンチがあった。ベンチには見慣れた人物が座っている。
(はぁ……本当に役に立たない女だ)
どこか虚な表情をして、騎士団長のエレンはベンチに腰掛けていた。
(……声をかけるべきか……何か利用できれば良いが)
あれほどの洗脳魔法を一瞬で解除されてしまった以上、再び洗脳してエレンをイシヤマにぶつけるのは現実的ではない。だが、戦闘力だけならばエレンは逸材だ。残念でならない。あいつが本気で戦えば、あの程度の男など認識もできずに殺せるだろうに。
(イシヤマを殺すための大義名分は用意した。問題はエレンが使えない上でどう殺すかだが)
これはもう仕方がない。私がやるしかないだろう。幸いにも、暗殺は専門分野だ。
「……見つけた」
ターゲットを発見した。やつは呑気にガールフレンドらしき人物とカフェでティータイムときた。
色々な意味でとてもイライラする。
私は一番狙いやすい地点を見極めた。
「…………っ!」
不意打ちだろうが、なんでも良い。武器は特殊な魔法銃。私は渾身の一撃を建物の屋根上からイシヤマに放った。
「ふん……」
完璧なタイミングだった。完全にやつの視界からは外れていたし、認識もしていないだろう。私は勝利を確信した。
のだが、────異変が起きた。
「……は?」
確かに魔法銃でやつの頭をぶち抜いたはずだった。 にも関わらず、やつは何事もなかったようにティータイムを続けていた。ガールフレンドと談笑し続けているのを見て、私のイライラがさらに増大する。
(何が起きた……?なぜやつは生きている?)
何も起こっていないことがおかしいのだ。やつは避けるような動作もしなかったし、弾がどこか別の場所に当たった様子もない。
「……ちっ」
私は仕方なく、もう一度魔法銃を構える。今まで1度で仕留められなかったことがなかっただけに、屈辱的だった。
「…………は?」
思わず阿呆のような声を出してしまった。引き金を引こうとした瞬間、私の手から魔法銃が消えていた。
「どこに……」
「物騒ですねー」
「………っ!?」
気づけば、建物の屋根の上にいた私の背後に、ターゲットがいた。
「どうやって……!?」
「普通に移動しただけです。それよりも、いきなり人を撃ち殺そうだなんて、酷い方ですね」
「………」
ターゲットは、さっきまで私が手にしていた魔法銃を自らの手の中でくるくると回転させていた。銃の持ち方からして素人だ。
「貴方が何者なのかは正直どうでも良いのですが、人を撃ち殺そうとする物騒な方は放っておけません。エレンさんを魔法で誘導したのも貴方なのでしょう?」
「……やはりわかっていたのか」
「彼女には悪いことをしました。魔法を解くためとはいえ、怖い思いをさせましたからね」
この男は最初に思った以上に危険だ。
言動なんかよりも、考えていることが全く分からないのが本当に良くない。
「私は存在的に狙われることは多いのですが、他の者を巻き込まないでいただきたいのですがね」
「……それは、イシヤマ、お前がいなくなれば解決する話だ」
「残念ですが、私がいなくなることはありません。私は、もっと多くの人をハッピーエンドに導かなければなりませんから」
「そう……か」
やはり良く分からない。
「だが、私はお前を殺さなければならない。任務に失敗したら、私が死ぬだけだ」
「はぁ……本当に、面倒なことです。私は皆と仲良くしたいというのに……権力側はいつも私のことを憎みます。私には、その感情は分からないですから、きっとまだしばらくは、争いは続くのでしょうね」
イシヤマは、感情の読み取れない表情のまま懐から何かを取り出した。
「……?」
「これは『真実の鏡』という道具なのですが、これで貴方の裏にいる人物を見てみようと思います」
「何?」
「私は基本的に何でもできるのですが、
「……っ!?」
突然、頭痛がした。
私は感じたことのないレベルの痛みに、思わず倒れてしまう。
「……あ」
意識が朦朧としている。思考がだんだんと纏まらなくなっていく。
「なるほど。そういうことですか」
「な……に……を」
「ご協力ありがとうございます。おやすみなさい」
イシヤマが訳の分からないことを言ったのち、私の意識は途絶えた。
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