番外編1:デスゲーム撲滅委員会


「よく集まって下さいました。では、今日の会議を始めたいと思います」

「…………」

「はい、芹様!」

「始まりましたね」


 病院の地下会議室に、せりを含め4人が集まっていた。


「今日は皆さんにお集まりいただいたわけですが、その理由はいたってシンプルなものです。いよいよ『あれ』を始めたいと思います」

「『あれ』、ですか?」

「はい。今日我々は、人の命をただのモノのように扱う『害悪』をこの世から排除し、未来ある人間たちを救済することになります。言うなれば、今日から我々は『デスゲーム撲滅委員会』です」




***




「──なるほど。『デスゲームから逃げようとするか首輪を無理矢理外そうとすると首輪が自動的に爆発して挑戦者は死に至る』、と。まさにテンプレートと言ったところですね。これは創作物が先なのか、悪行が先なのか。興味深い所です」

 そう言って、せりは目の前にいる少年少女たちの首輪をじろじろと確認していた。


 現在せりは、「まずは実地調査をしよう」と言って、デスゲームに招待すらされてないにも関わらず勝手に現場に混ざっている状況である。

 丁寧に自作の首輪(格安)まで用意しており、幸いまだ主催者側には見つかっていなかった。


 そして一通り情報収集が済んだと判断した芹は次のフェーズへと移行する。

「なるほど。じゃあ────はい、3,2,1──『ぼんっ』!」

 せりは全員の首輪を目に見えないほどの速さで切り離す。そして、そのまま全員の首輪を空中に放り投げ、少年少女たちを爆発から遠ざけた。念の為バリアを張っておくことも忘れない。

 この間、0.0003秒であった。


「……?なんで今、わざわざ『ぼんっ』なんて言ったんだ?」

 御形ごぎょうは、困惑と呆れの混ざった顔で芹を見た。

 しかし芹はなぜそんな顔で見られるのか理解していない様子だった。

「その方が皆んな緊張が紛れるかなぁ、と」

 そんなことを言っている。


「……余計怯えてるぞ。お前の感覚に合わせられるのは一部の人間だけだからやめろ」

「申し訳ない」

「はぁ……」

 冗談でなく本気で思っているあたり、せりが悪の道に進んでいたらと思うと、御形はぞっとした。


《──え、ちょっ……なんで首輪が外れている!?》

 ここで運営が困惑の声を挙げた。

 芹の動きが速すぎて、カメラ越しに現場を見ている運営側の人間は誰一人状況を認識できていなかった。



「はい。というわけで皆さんはもう死ぬことはないのでご安心ください。さっさと家にお返ししますね」

 芹がそう言った瞬間、デスゲームに囚われていた少年少女たちは姿を消す。芹がこの世界に存在しない『転移魔法』で勝手に家に送り届けたのである。



《──あ、ちょっ、どこに行った!?お前ら一体何をしたんだ!?》

 運営の人間の困惑はさらに爆発する。


「簡単な話です。私が責任を持って救助したまでです」

《貴様……何を言って……。いや、そんなことより、私たちに逆らってただで済むと思っているのか!!せっかく出資者様たちが観察をしていると言うのに台無しではないか!!》

「なるほどやはり出資者がいる、と。全く、他人の命を弄ぶとは愚かなものです。お金で何でも買えるというのですか」

《まさか、警察の関係者か?まぁいい。貴様、楽には殺さんぞ。デスゲーム運営を妨害した罪を償ってもらう!》


「はて……、何か勘違いをされているようですね」

《……何?》

「デスゲームは人権侵害ですよ」



《……………………は?》

 運営は呆けた声を出す。


「ですから、デスゲームは立派な人権侵害なんですよ。この様な行為をビジネスにすること自体、おかしいとは思いませんか?」


《正気か、貴様……?》


「正気ですよ。言い換えましょうか?デスゲームは違法ですし、人の命を他人が勝手に軽く扱ってはいけない、ということです」


《そんなことを聞いているのではない!》

 運営が叫ぶ。だが、この声は芹の奥には届かない。


「話が通じないので、そろそろ失礼しますね」


《何を……ぐあぁぁ!?》

 運営のみっともない断末魔が、芹たちしか残っていない会場に響く。

 そして気づけば芹たちすらもその場からいなくなっていた。




***




「何だ!?何がおこっている!」


 誰も映らなくなったテレビの画面を見て、男たち女たちが叫んだ。ここは一般人が立ち入ることができない超高級ホテルの特別ホールで、デスゲーム視聴専用会場だった。


「何が……。……っ?」


 カチッ、と音を立てて、ホテルの照明が急に全て消えた。

 そして数秒後再び照明がつく。


「……一体………っひっ………!?」

 ホテルにいた誰かが声を裏返した。


 画面に映るのは、無惨な死体の山。

 それも全員、このデスゲームの運営側の人間であった。


『こんにちは、皆さん。私は石山病院院長の石山芹と申します』

 そして唐突に全員の脳内に語りかける存在に、皆が恐怖と困惑の感情を抱く。


「石山病院……?」

 1人の男性が呟いた。

(石山病院といえば……警察を支配しているとか、国家権力を掌握しているとか、怪しい宗教を運営しているとか、とにかく不気味な噂が絶えない病院じゃないか……)


『デスゲームを楽しんで見ている人たちの思考がどうなっているのか、私にはよく分からないのですが、今回あなた達で実験することができてとても嬉しく思います』

「何を言っている?お前は何なんだ!」

『あなた達に発言権は今はありません。ああ、そうです。試しに……』

「……?……ひっ!?」


 ボンッという音が鳴ったかと思うと、会場にいた数十名のうち、3人の頭が爆発した。


『どうでしょう、御形ごぎょうくん。何か感じましたか?私は特に何も感じなかったのですが』

 声の主は、無邪気な子どもが大人に質問するかのように、誰か他の人間に尋ねた。そこには悪意は存在せず、それがかえって会場にいたものを絶望させた。


『俺には人の頭が飛んで喜ぶ趣味はない』

『しかし、デスゲームの見学者というのは、これが楽しいのではないのですか?』

『あいつらの思考なんて知らんが、俺には理解できない』

『ああ、あそこに我々に怯えてしゃがみこんでいる大人が1人いますよ。これが愉快ということでしょうか?』

 会場には男性2人の声だけが響く。なんと言うこともない日常会話のようなトーンで、殺戮が行われていく。

 まさに、この場は地獄と化していた。


『同じ状況を作り出せば犯罪者たちの思考を追体験することができるかと思ったのですが……私には難しかったようですね』

『もういいだろ、十分だ』


 あきれたような男の声が会場に響いたのが最後、会場にあった命の輝きは全て失われた。


 そして次に男たち女たちが目覚めたのは、神の作り出した部屋の中。

 もしかすると、死んで、そこで終われなかったことは不幸かもしれない。


 とは言えしかしながら、それは今まで上に立っていた存在の考え方でしかない。

 次があること自体が幸せなのである。

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