第1話:第40神世界
異世界『第40神世界』に存在するモード王国。それが、芹たち一行が向かった場所である。
***
─異世界・モード王国・『奴隷商』にて─
モード王国最大の奴隷商。それは王国から街の広場を借りて、その広場にテントなどを設置し運営されている。
モード王国には奴隷制度が存在し、犯罪を犯した人間や、人間と似た見た目をした別種族などを奴隷という身分にする。
さて、この奴隷商は主に貴族や裕福な平民が利用している。荷物運び用の奴隷や、その他色々。そんな中、3人の子供が檻の中に入れられていた。
1人目は『獣人族』の少年。名前は『シン』。
モード王国では、獣人族は差別対象であり、そのほとんどが労働奴隷である。この少年もまた、労働用の奴隷として奴隷商で売買されようとしていた。
2人目は『エルフ族』の少女。名前は『ミラ』。
この人間族が支配するモード王国と、エルフ族が支配するメジアン王国は関係が悪く、何度も戦争を繰り返している。この国では「エルフを見つけたら奴隷商や国の機関へと突き出すか殺してしまう」ことが暗黙のルールとなっている。
この国においてエルフ族の居場所などほぼないと言っても過言ではない。せいぜい貴族の何かしらの奴隷として働けたら良い、というものなのが現状である。
そして、3人目は『人間族』の少女である。名前は『マイ』。
この少女は、モード王国の端にある村の出身で、本人は無実を主張したが殺人の罪を着せられ、奴隷にされた。犯罪奴隷である。
この3人は全員14歳。同い年と言うのもあって奴隷商の狭いテントの中で、ある程度の友情を育んでいた。3人は励まし合い、慰め合いながら早1年近く過ごした。
たとえ買われても、「きっと悪いようにはされないだろう」と。実際にはそんなことが有り得ないことが分かっていても、励まし合っていた。
しかし、現実はとても論理的で、残酷だった。
「──ほぅ!!なかなか美しいぃではないかぁ!!よし!!我がお主を
ミラを見てそう言ったのは、このモード王国の貴族であるアベレージ伯爵だった。彼はこのモード王国で伯爵という地位を持ち、絶大な権限を持っているのだが、一つ大きな問題を抱えていた。
「ふふふ!!」
彼の特徴を何か一つ挙げるとしたら、間違いなく全員がこう答えるだろう──『気持ち悪い』と。
人を見た目で判断するということは本来あってはいけないはずだが、この伯爵は、言動からして既に気持ち悪いのである。そしてそれはこの国では周知の『事実』である。
「ふーーーふふふ」
実際彼は『変態』かつ『変人』である。
そして彼にはある『噂』がある。それは『買った奴隷をその日のうちに
これは、買われる奴隷からしてみれば、恐ろしいというレベルのものではなかった。
そんな噂を聞いて、アベレージ伯爵に買われたいと思う奴隷など存在はしない。
そんなアベレージ伯爵に目をつけられてしまったミラはと言うと──
(──あっ……、逃げないと……まずい……)
彼女は頭がよく、表情には出さないが、心はすっかり絶望に染まっていた。
「──ふむ、では、会計を頼むぞぉら」
そして彼女は無情にも買われた。奴隷には、主人を選ぶ権利などない。
***
―芹たち一行―
「はい!では注目!!」
それを見ていた通行人の一部が芹を怪しがっていたことは、芹本人は知らない。
「……どうしたんだ、ついにおかしくなったか?」
一方の
しかし、残念ながら芹はそんなことなど気にも留めない。
「あはは。2人とも今日が初めての異世界ですからね。質問をしておかないと、と思いまして」
「……」
「というわけで、2人とも!」
芹は
「──『異世界と言えば?』」
そして、抽象的な質問をした。
「……えっと……?」
真也、思考。
「はい!美味しい料理!」
なずな、即答。
「よぉし、じゃあまずレストランに行こう!!」
芹、即答。
「おい……お前の目的はレストランじゃないだろ……」
***
(あぁ……もう……だめだ……ミラはきっとあのアベレージ伯爵に…………そしてきっと……いつか私たちも……)
私は買われるミラを見て、胃を吐きそうになった。不思議と、ミラの姿が自分と重なったからだ。
「ふふふぅん、ふ」
アベレージ伯爵は、ミラに契約のための奴隷紋を刻むために、店員と一緒に個室へと向かっていった。
あと少しでミラは本当に伯爵の奴隷になるのだ。もう誰も止めることはできない。
「終わり」という単語だけが、私の胸の中を掻き回す。
しかし、それから僅か1分ほどしたころ。私の視界に知らない何かが映った。
「どうぞ、ごゆっくりと見て下さいませ」
「案内ありがとうございます」
私たちと他10名ほどの奴隷がいる部屋に、人が入ってきた。
「……!?」
(えっ……、ちょっとまって、あれってヘンサ商会長よね!?商会長がわざわざ案内するほどの客が来たってこと?)
突然現れたヘンサに、私は戸惑いを隠せない。ヘンサは絶大な権力を持つアベレージ『伯爵』が来たときですら案内などしなかったのだから。
(……どういうこと?まさか王族でも来たの?)
「──さて、みんなで手分けしていきましょう」
(……来たみたいね)
私は檻の端に身を隠した。
(ん…………?)
入ってきたのは5人だった。3人は白衣を着ており、2人は変わった服装をしていた。
(あの服……研究者?)
──
補足しておくと、この世界には治療のための魔法があるため医者という職業はない。そのため白衣といえば研究者だと思うのが普通だった。
──
(……王族直近の研究者とか?取り敢えず王族そのものではなさそうね)
そのように考えていると、1人の男が私たちのいる檻の方へとやってきていた。その男は特にこれといった特徴はない。普通の男だ。
男は私たちの檻の前へ来ると、私たちのことをじっと見つめてきた。私たちは思わず目を逸らしてしまったが、男はずっと私たちを観察していた。
そしてそのままの状態が3分ほど続くと、男は何かぶつぶつと言いながら考え始めた。
「うーん……、この子たちは……ぶつぶつ」
(一体何を考えて…………まさか)
私は一つの可能性を導き出してしまった。
(そもそも何故研究者が奴隷を買いに来たの?もしかして……)
『人体実験』。
そんな言葉が私の頭の中に現れた。
(まさか……人体実験のために……奴隷を買おうとしている!?)
──
この国では研究者が実験のために奴隷を買うことがある。大抵の場合買われた奴隷は使い潰され捨てられることになる。
そのため研究者は、奴隷にとって買われたくない買い手ランキングトップ3に入るだろう。
──
(──ってことは、買われたらほぼ間違いなく死ぬってことじゃない!?……しかも、楽になんか死なせてもらえない……。……絶対に買われないようにしないと……)
さらにその10分後─
「石山院長、大体終わりました!これからどうしますか?」
私たちが入れられている檻のすぐ近くにいた男が誰かに大声で話しかけた。
「あ、分かりました。流石ですね、
「了解ですー!」
どうやら、私たちの目の前にいる男の名前は『はこべら』というらしい。
変わった名前だ。外国人だろうか?
まぁ、そんなことどうでも良いんだけど……。
「さてと、石山院長が来るまで暇だな……、何してようかな」
このはこべらという男は、見た目が普通であるゆえに、私の目には余計に不気味に映った。
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