Epilogue:石山病院の始まり
あるあの世の関係者は、「生と死はこの世とあの世のバランスを保つために必要なものである」と言った。
***
──時刻は午前5時。まだ日は出ておらずあたりは真っ暗である。
しかし都心から少し離れたある市に位置する石山診療所には、明かりが灯されていた。
「あっ、
診療所の休憩所で、院長の
後に石山病院と名前を変えるこの病院は、最初は職員3人の小さな診療所だった。
「おう……」
御形はコーヒーを受け取ると、「はぁ……」とため息をついた。
「芹……、お前いつまでこんな生活続けるつもりなんだ?」
御形は、芹にそう問いかける。
「どうしたんです急に?」
「あのな……、この診療所が
石山診療所はここ数年『困っている人を助ける』という形で無料で診療をしているケースが非常に多い。よって、当然のことながら赤字続きである。
「流石のお前でも、お金を無断で作るわけにはいかないだろ」
「そうですねー」
「今みたいに慈善活動を続けたって別に構わないが……実際問題、このままだと世界に大きな影響を与えることをしないといけなくなる」
「それはお前がやりたくないことなんだろ?」と、御形は続ける。
「……私も分かっていますよ。ここままだと診療所を維持できないことはね」
「何か策でもあるのか?」
御形は石山に問う。すると芹は「ええ。実はあります」と自信ありげに立ち上がった。
石山は、改まって真剣な表情になりこう言った。
「異世界に行きましょう!!!」
「…………は?」
御形は、あきれるような顔をした。
***
──芹はこの時すでに異世界へ行く方法を確立していた。そのため異世界に行くこと自体は容易で、たまに異世界へと足を運んでいた。
「というわけです。どうです、悪い話じゃないでしょう?」
「……まぁ、たしかにな。じゃあ、いっそのこと異世界に拠点を移すっていうのも悪くないんじゃないか?物価が安い場所なんかどうだ?」
「それなんですがねー……、本当は診療所ごと引っ越すのも手かなとは思ってはいますが……ちょっと事情があって、診療所ごとの移動はできなそうです」
「……でもよ、向こうで稼いだ金は向こうでしか使えないだろ?」
「……たしかに、普通なら使えませんが、今回は私がなんとかするから大丈夫ですよ!!」
「お、おう……。正直お金を作るのとどう違うのかは知らないが、程々にな……」
珍しく声を高くした芹を、御形はやや引いて見ていた。
***
「御形君、そっちはどうです?」
「えーっと……そうだな、レッドドラゴン157体とウォータードラゴン56体、あとその辺の低級だな。まぁ、これだけ倒しておけばひとまず今月の財源としては十分だろ」
「じゃあ、早速報告にいきましょうか」
石山と御形は、ある世界でトップ『冒険者』として活躍していた。
突如現れた2人組が大物ばかりを狙って討伐して回っているという噂は、すでにその世界の端まで拡散されていた。
2人は定期的に人が恐れる大物を討伐しては、すぐさま報告し、お金だけ受け取ると去っていく。そのため存在自体が都市伝説だと思っている人間も多い。
「活動資金も増えたことですし、今度からは積極的に異世界へも人助けに向かいましょうかね?」
「良いんじゃないか?お前に任す」
活動資金を手に入れた芹たちは、いよいよ世界をも超越した救済に入ろうとしていた。
***
──そして時は流れた。
「いやー。ついにここまで来たって感じですね」
「まさか、こんなことになるとは思わなかったんだがな……」
「でもこれで、またたくさんの人を救うことができますよ」
芹は、そう呟く。
それに対し御形は「……お前らしいな」とだけ返す。
「あっそうそう!今度
「あー……そうだな。あいつもそろそろ外へ出てみたい年頃だろうしな。」
「でしたら、そういうことで」
「……随分経ったな」
御形は缶コーヒーを飲みながら、完成した病院を眺めて呟いた。
「何か?」
「……いや、なんでも」
「?」
「さ、仕事戻るぞ院長」
「はいはいーー」
1日がまた始まる。
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