第7話:学園祭準備!イケメンたちの熱視線と、レティシアの奉仕活動(誤解)
「さて、学園祭の準備、いよいよ大詰めですわね!」
私は、両手にたくさんの布袋を抱え、生徒会室へと向かっていた。学園祭が来週に迫り、学園全体がお祭りムードに包まれている。私は聖女候補生として、孤児院支援のためのチャリティバザーの準備に奔走していた。
「(ゲームでは、この学園祭で悪役令嬢がヒロインの出し物を妨害し、決定的な破滅フラグを立てるはずだったわ! だが、私はもう違う! 聖女として、地道な奉仕活動で好感度を稼ぎ、破滅フラグを粉砕してやるんだから!)」
脳内で悪役令嬢マニュアルが叫ぶ。奉仕活動は、清く正しく美しく! 決して私利私欲のためではない、という顔で完璧にこなすのだ。
生徒会室の前に着くと、中から何やら話し声が聞こえてくる。ちらりと扉の隙間から覗くと、そこには生徒会長セドリックと、騎士団長レオナルド、そして天才魔術師アリスの姿があった。彼らが生徒会室にいるのは珍しい。
「……チャリティバザーの件ですが、レティシア様は本当に熱心に活動していらっしゃる」
レオナルドの声が聞こえた。
「ええ。孤児院の子供たちのために、休む間もなく準備をされていますから。見ているこちらが心配になるほどです」
セドリックが頷く。
「フム。彼女の魔力は、奉仕活動をしている時に一番安定し、澄んでいる。あれは、計算では出せない輝きだ。……気づけば、視線を追ってしまう。まったく、魔力以上に……不可解だ」
アリスが真面目な顔で分析している。
「(な、なんですって!? 私の奉仕活動が、監視されている!?)」
私は心臓が跳ね上がった。まさか、彼らが私の奉仕活動をここまで綿密にチェックしているとは! これは、私が聖女としての資質を偽っていないか、あるいは、裏で何か不正を働いていないかを探るための、巧妙な監視だ!
「(くっ……抜かりないわね! だが、このレティシア、不正など一切していないんだから! 見たいならいくらでも見せてあげるわ!)」
私は布袋を抱え直すと、意を決して生徒会室の扉を開けた。ギィ、と音を立てて扉が開くと、三人の視線が一斉に私に集まる。彼らの顔は、一瞬にして居住まいを正したような真剣な表情に変わった。
「皆様方、ごきげんよう。ちょうど今、バザーの品々を運び終えたところですわ」
私はにこやかに微笑んだ。彼らの顔には「いつからそこに!?」という戸惑いが浮かんでいる。
「レティシア様! お疲れ様です。いつも本当に熱心でいらっしゃる」
セドリックが椅子から立ち上がり、私の元へ歩み寄ってきた。彼の視線が、私が抱える布袋、そして私の汗ばんだ額へと向けられる。その瞳は、心底労るような色を宿している。
「(おやめなさい! その優しい言葉は、私を油断させる甘言よ! 私の体力の限界を探っているのでしょう!?)」
私は内心で警戒警報を鳴らす。セドリックは、私が疲労で何か失言しないか、あるいは体調を崩して倒れないか、監視しているに違いない。
「いえ、これも聖女としての務めですから。それに、子どもたちの笑顔を思えば、これしきの疲れ、何でもありませんわ!」
私は笑顔で答えた。しかし、その額から伝う汗は止められない。セドリックは、私から布袋をそっと受け取ってくれた。その手が、私の指にわずかに触れる。
「(ひぃっ! またボディタッチ!? これも破滅フラグの一種ね! きっと、私の魔力反応でも見ているのでしょう!)」
私の心臓がドクンと高鳴る。この胸の高鳴りは、間違いなく警戒レベルの証拠だ。
「レティシア様は本当に働き者ですね。ですが、ご無理はなさらないでください。わたくしたちも、お手伝いしますから」
セドリックが布袋をテーブルに置き、今度はレオナルドが前に出てきた。
「レティシア様のその真摯な姿勢には、頭が下がります。何か力になれることがあれば、いつでもお申し付けください」
レオナルドがそう言って、頼もしげに胸を叩いた。彼の視線は、私が作業しているバザーの品々、そして私の手元へと向けられている。
「(まさか、手伝いを申し出ることで、私が何か不正を働いていないか、内部から探るつもりね!)」
私はすかさず笑顔で答えた。
「まぁ! レオナルド殿までお手伝いくださるなんて! 光栄ですわ! では、この品物の仕分けをお願いできますかしら? 種類別にきちんと分類してくださると助かりますわ!」
私はわざと複雑な仕分け作業を依頼した。これで、彼らも無駄な詮索はできまい。
アリスは、私の近くでじっと私を観察していたが、私がレオナルドに指示を出すと、静かに口を開いた。
「レティシア様。このバザーで売られる魔法具は、わたくしが鑑定いたしましょう。偽物や粗悪品が混じっていないか、確認することもできます」
「(おやめなさい! それは私が作った品物にケチをつける気ね!?)」
アリスの申し出に、私はピクリと反応した。まさか、私が作った品に何か不正を見つけようとしているのか。
「まぁ! アリス殿に鑑定していただけるなんて、心強いですわ! さすがは天才魔術師! 鑑定の目は確かですものね!」
私は満面の笑みで、彼に魔法具の入った箱を差し出した。内心では「(よし、私が作ったものは完璧だから、何を調べられても問題ないんだから!)」と、不敵な笑みを浮かべていた。
三人のイケメンたちは、それぞれバザーの準備を手伝い始めた。彼らは真剣な表情で、私が指示した作業を黙々とこなしていく。その様子を見ながら、私は心の中で満足げに頷いていた。
「(ふふん、これで悪役令嬢が奉仕活動をサボっている、なんて破滅フラグは立てられないわ! むしろ、優秀な聖女候補生としての評価が上がるに違いないわ!)」
彼らが手伝ってくれるおかげで、作業は飛躍的に進んだ。イケメンたちは、疲労で私の顔色が悪いことに気づくと、そっとお茶を差し出してくれたり、椅子を勧めてくれたりする。そのたびに私は「(これも私を油断させる罠!)」と警戒し、笑顔でかわすのだった。
学園祭当日。チャリティバザーは大盛況だった。イケメンたちのおかげで、品揃えも豊富で、質の良いものばかりだと評判だった。
「(これも全て、私が彼らを上手く利用した結果だわ!)」
私は心の中でガッツポーズを取った。彼らの熱視線は、きっと私の完璧な奉仕活動ぶりに驚いている証拠だ。
こうして、学園祭の破滅フラグは、イケメンたちの「監視」と「手伝い」によって、見事回避されたのだった。彼らの協力は、あくまで私の破滅をコントロールするためのもの。私は、その狙いには絶対にかからない。
脳内会議の結論:「悪役令嬢が率先して手伝えば、周囲の評価も上がる! 破滅フラグを回避するチャンスよ! この利用価値、最大限に活用しますわ!」
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