第4話:友情?それとも罠?初めての協力プレイ

「本日の課題は、魔法薬の調合ですわね……!」


私は、ずらりと並んだガラスのフラスコと試験管を前に、目を輝かせた。聖女学園に入学して一週間。座学は想像以上に面白く、特に魔法薬学は、前世で理系だった私の心をくすぐる。今日の課題は、解毒薬の調合。失敗すれば、毒ガスが発生する危険もある。


「(ゲームでは、ここでヒロインが調合に失敗し、私がそれを嘲笑う場面があったはず! だが、私はもう悪役令嬢じゃない! 完璧な解毒薬を調合し、聖女としての才覚を見せつけてやるんだから!)」


脳内で悪役令嬢マニュアルが叫ぶ。破滅フラグ回避のため、完璧を目指す! 私はレシピを熟読し、慎重に材料を計量していく。


周りでは、早くも何人かの生徒が失敗して、フラスコから白い煙を噴き上げていた。その中には、見慣れたイケメンたちの姿も。


「うわあああ! 焦げた!」

「アリス、これ、泡立ちすぎだぞ!」


セドリックは額に手を当ててため息をつき、アリスはフラスコから煙を噴き上げさせていた。レオナルドは不器用な手つきで薬草を刻んでおり、眉間に深い皺が寄っている。彼らも魔法薬の調合は苦手なようだ。


「(ふふん、これで少しは私の評価も上がるわね。彼らは普段から優秀だから、こんな初歩的なところでつまずく姿は、きっと珍しいのでしょう!)」


私は優越感に浸りながら、集中して作業を進める。手順通りに薬草を混ぜ、魔力を込める。フラスコの中で液体がゆっくりと色を変え、透き通った緑色になった。完璧だ。


「よしっ! できた!」


私が思わず声を上げたその瞬間だった。隣の席で作業していた生徒が、不注意でフラスコを倒し、私の作業台に液体が飛び散った。それは、まだ不安定な調合途中の薬液。シュワシュワと音を立て、私の台にあった薬草が変色していく。


「ひぃっ!?」


私は飛び上がった。これはまずい。このままでは、私の完璧な解毒薬が台無しになるだけでなく、不安定な液体がさらに反応し、危険なガスが発生するかもしれない。


「(まさか、こんなところで新たな破滅フラグ!? 私の完璧な聖女への道に、予期せぬ障害がぁあああ!)」


焦る私に、しかし素早い影が迫った。


「レティシア様! 危ない!」


レオナルドが、一瞬で私の作業台に駆け寄り、飛び散った液体に自らのマントを素早く被せた。シュワシュワという音は止まり、危険な反応は収まった。彼のマントからは、焦げ付いたような匂いが立ち上る。


「大丈夫ですか、レティシア様!?」


セドリックが隣から顔を覗き込み、心配そうに問いかけてくる。その手には、冷却魔法が込められた氷の塊が握られていた。いつでも使おうとしていたのだろう。


アリスは、瞬時に鑑定魔法を発動し、飛び散った液体の成分を分析している。


「フム……。幸い、毒性は低い。だが、皮膚に触れれば軽い炎症を起こしただろう」


三人のイケメンが、私を取り囲むように立っている。彼らは皆、私の身を案じるような表情をしていた。


「(な、なんですって!? 危なかったわ……! でも、どうして彼らがこんなに素早く……まさか、私が危険な目に遭わないか、常に監視していたってこと!?)」


私は彼らの迅速な対応に驚きつつも、脳内マニュアルの警告が鳴り響く。


【警告!この行動は「悪役令嬢を助けて恩を売る」フラグです! 油断してはいけません!】


彼らが私を助けたのは、善意からではない。きっと、私がここで致命的な失敗をして破滅しないように、見張っていたに違いない。むしろ、私を破滅へと導くシナリオを、彼ら自身がコントロールしようとしているのだ。


「皆様方……わたくしのために、ありがとうございますわ! 流石は皆さま、常に危機管理を怠りませんのね!」


私は深く頭を下げた。彼らは私の言葉に、一瞬ポカンとした顔をする。レオナルドはマントの焦げ跡を見ながら、「いや、これは……」と何か言いかけたが、私が真剣な表情をしていたので、結局何も言えなかった。


「レティシア様が無事ならば、それで結構です」


セドリックが優しく微笑む。アリスもまた、難しい顔で頷いた。


「(ふふん、これで私の完璧な聖女への道は揺るがないわ! 彼らは私の失敗を期待していたでしょうけど、残念でした!)」


私は心の中でガッツポーズを取った。監視者たちの思惑を打ち破り、私はまた一歩、破滅回避へと近づいたのだ。


その後、イケメンたちは私が無事に解毒薬を調合し終えるまで、そっと見守っていてくれた。彼らは私が何か手助けを必要としないか、常に注意を払っているようだった。


「(なるほど……彼らは私が何かやらかさないか、あるいは破滅イベントに導くための手助けをして、確実にレールに乗せようとしているのね!)」


私は彼らの親切をそう解釈し、一層真面目に作業を進めた。完璧な解毒薬が完成すると、クラスメイトたちからも感嘆の声が上がった。


「すごい! レティシア様の作った解毒薬、すごく澄んでる!」

「さすがレティシア様だわ!」


私は胸を張る。イケメンたちの監視の目があるからこそ、私はこんなにも完璧に振る舞えるのだ。


こうして、聖女学園での初めての課題は、イケメンたちの「協力プレイ」によって、無事に(私の中では)破滅フラグを回避して幕を閉じたのだった。彼らの協力は、私を破滅へ導くための、巧妙な罠。私は、その罠には絶対にかからない。


脳内会議の結論:「監視者たちとの協力プレイは、破滅フラグ回避のための、必要な通過点! この利用価値、最大限に活用しますわ!」

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