第2話 ギフト
俺は薄暗い屋内訓練場で自分よりも背丈のありそうな木剣を握りしめていた。
前世の記憶が蘇ってから、すぐに行動を開始したわけだ。
RTAにおいて、初動の遅れは致命的なタイムロスに繋がる。
「さて、と……」
目標はシレン家伝来の【ギフト】覚醒。
その条件は、魔力と生命力を同時に、かつ急激に一定量まで消費すること。
普通に考えれば、5歳児が達成できるような条件じゃない。
下手をすればマジで死ぬ。
だが、俺には最適解が見えている。
(普通の素振りや魔法の練習じゃ効率が悪すぎる。シレン流剣術、初伝の型……〈魔循環〉。これ一択だ)
〈魔循環〉は、体内の魔力を剣先に集め、それを再び体内に戻すというループを繰り返す基礎鍛錬用の型だ。
原作ゲームでは、習得しても攻撃力が上がるわけでもなくただ魔力だけを消費していくため、プレイヤーからは「何の意味があるんだよ」「罠スキルだろ」とまで言われた正真正銘の死にスキル。
しかし、今の俺にとっては話が別だ。
この型は、生命力、つまりスタミナと、魔力を同時に、そして極めて効率よく消費することができる。
ギフト覚醒のためだけに存在するかのような、まさに神がかったスキルだった。
「ふっ……!」
俺は覚えたての知識を総動員し、おぼつかない足取りで型をなぞる。
5歳の肉体は驚くほど言うことを聞かない。
体内の微々たる魔力を無理やり循環させると、全身の血管が焼き切れるような感覚に襲われた。
きつい。
息が上がる。
視界が明滅する。
だが、RTA走者にとって、リソース管理は基本中の基本だ。
(まだだ……まだ足りない。原作のカイトがこの型を練習しなかった理由は、この苦痛に耐えられなかったからだ。だが俺は違う……! この先に待つ絶望的な未来に比べれば、こんな痛み、ただの演出だ!)
汗が目に入ってしみる。
足が震えて、今にも崩れ落ちそうだ。
魔力が、生命力が、体からどんどん抜け出ていく感覚。
普通の子供なら、とっくに泣いて逃げ出しているだろう。
それでも俺は木剣を振るうのをやめなかった。
一回、また一回と、正確に型を繰り返す。
これは作業だ。
最強に至るための、チャートに組み込まれた最初のタスクに過ぎない。
そして、一体どれくらいの時間が経っただろうか。
ついに身体が限界を迎え、俺は膝から崩れ落ちた。
木剣が床に転がる乾いた音が、やけに大きく響く。
「……がはっ……!」
もう指一本動かせない。
意識が遠のいていく。
その、瞬間だった。
――ピロンッ
俺の脳内にゲームの効果音のような音が響き渡る。
目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。
【特定の条件をクリアしました。ギフト〈
「……よし!」
俺は薄れゆく意識の中でガッツポーズを作った。
計画通りだ。
次の瞬間、俺の身体に異変が起きた。
空っぽになったはずの魔力タンクに外部から何かが流れ込んでくる。
訓練場の床から、壁から、空気中に漂う微細な魔素が俺の身体に吸収されていくのだ。
枯渇したはずの体力がみるみる回復し、疲労感が嘘のように消え去っていく。
【ギフト:魔力喰い】
効果:術者の周囲に存在する魔力を自動的に吸収し、自身の魔力に変換する。生物から直接魔力を奪うことも可能。
(これだ……! これさえあれば無限にスキルが使える永久機関の完成だ!)
〈ディスクライド〉において、ポーションなどの回復アイテムは非常に高価だ。
そのため、プレイヤーは常に魔力やスキルの使用回数を気にしながらダンジョンを攻略する必要があった。
だが、この【魔力喰い】があれば、そんな制約は一切関係ない。
スキルを撃てば撃つほど、周囲の魔力を吸って回復する。
戦えば戦うほど、強くなる。
これこそがシレン家に隠された真の才能。
そして、RTA最速攻略のための、最高のエンジンだった。
「さて、第一段階はクリアだ」
俺はむくりと立ち上がる。
さっきまでの疲労は微塵も感じない。
むしろ、力がみなぎってくるのを感じる。
「次のチャートは、地下の『アレ』を狩って最速でレベル10に到達すること、か」
シレン家の屋敷の地下には、警備と称して数体の魔物が飼われている。
原作のカイトはそれを怖がって、一度も近づかなかった。
だが、効率厨の俺に言わせれば、それは経験値が詰まった宝箱に他ならない。
俺はニヤリと笑い、訓練場の隅にある地下への扉に手をかけた。
「世界最速のレベリングを始めるとしようか」
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