第2話 超億万長者はお忍びしたい

 カインの購入した国、現在は正式な国家として世界に認められて無いため、まだ名の無い無名の国であるが、周辺国家には新たに発足した小さな国として認知はされている。購入前の当時も小さな弱小国家ではあったが、カインが購入した当時とは打って変わり、周辺の土地の買収や開発が進み、今や国土は10倍以上に成長していた。

 そんな無名の国の中央に位置する場所に、一際立派で巨大な城が建てられている。そんな城の一室、カインの執務室に一人のメイドがドアを叩いて入室する。

 「失礼します。カイン様、先月の収支表になります」

 「うん。ありがとうエリーシャ」

 「恐れ入ります」

 メイド服姿で、特徴的な翡翠の瞳。見た目は若く、長髪を綺麗に結った金髪のエルフの女性は、数十枚に束ねられた書類をカインに手渡した。

 「軍事予算がかなり余ってるね。行き届いていない箇所や報告は上がってないのかな?」

 「恐れながらカイン様…」

 「一般兵士には最高クラスの武器や防具を至急し」

 「うんうん安い買物だった」

 「騎士には英雄級の武器や防具、様々なアイテムに加え、A級以上の騎乗型ドラゴン種を配備」

 「それも全然たいした買物じゃなかったな〜」

 「精鋭部隊には伝説級の様々な品を与え、魔導書による能力の強化を施し」

 「伝説とか言うけど、案外安かったよねぇ〜」

 「さらに我々側近には、神話級の数々の装備と、禁書や魔石による固有の能力強化」

 「聖石や希少なアイテムなどによる、ステータスの限界を超えた強化など」

 「見つけるの大変だったけど、知れてるよねぇ〜値段」

 「カイン様。我々はもう十分、カイン様の御心が隅々に行き届いております」

 「ん〜、なるほどねぇ〜」

 最低でも高品質、果ては神話級のあらゆる武器や防具、希少なアイテムの数々。まだまだ広大で果てしないヴァルハラにおいて、まだまだほんの一握りかも知れないが、カインはありとあらゆる方法で、移動可能な場所より多くの物をかき集めた。

 同時に、見込みのある一般人から異種、異業種、英雄、逸脱者、時には罪人など出自や種族を問わず、中には魔物や精霊、悪魔や天使など、金で買える全てを買い集めた。その中で時に優秀な数名を側近として側に置き、特別に様々な強化を施した事でステータスはカンストしており、最高レベルはMAXの999+90である。←この+数値というのは、限界を超えた数値という意味であり、レベル999と999+1とではかなりの力の差が生じる。ちなみにこの世界の過去の文献で英雄級の勇者クラスが300レベルという記録と比べても圧倒的な数値となる。

 ちなみに言うと精鋭部隊のレベルは680〜999+12であり、騎士の平均は600ほど、一般の兵士までも300前後の猛者達が属している。ちなみに他国の一般兵は50以下である。

 「でもみんな強くなったよね、成長限界を超える霊薬だったっけ?あれすごいよね」

 「おっしゃる通りにございます」

 「かくゆうカイン様も、我々を裕に超越する存在だと思っております」

 「まぁ〜そうなるよね」

 「レベルは999+100、我々の主人として、これ以上の方は存在しません」

 「まぁ、まだまだ成長限界を超えらるアイテムは探させてるけど、今はまだこれが限界かな」

 「恐れ入ります」

 カイン本人も、様々なアイテムによって身体強化を施し、禁書や魔導書によって様々な魔法や特技、特性を習得。さらに武具や装飾品はカイン唯一の一品物で、神話級を超える力を有している。見た目13歳の子供でありながら、すでに世界とは隔絶された存在なのである。

 「さぁーて、今日の実務は終わりにして久しぶりに城下に出掛けるとするよ」

 「お出掛けでございますか?お供もはいかが致しましょう?」

 「あー、お忍びで行きたいからお供は大丈夫…っても誰か無理矢理着いて来そうだけど…」

 「承知致しました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 「うん。夕食までには戻るよ」

 そう言って執務室を後にするカインをエリーシャは見送ると、今まで彼が座っていた椅子に忍び寄り、誰もいない事を確認し我慢していたヨダレを垂らしながら頬擦りした。

 「えへへっ、カイン様の座られていた椅子〜尊い〜」

 これが彼女の至福の時間であるとは、まだ主人には知られていない。


 @@@@


自室にて支度を済ませ城下へと向かう途中、広大な城の大広間に差し掛かる手前でカインは一度柱に身を隠す。

 「今回はなるべく目立たないよう一人で行動したい…」

 「怪しい奴は…」

 柱から少しだけ身を出し、周囲を密かに確認する。

 「いないか…」

 周囲には城を出入りする騎士、周辺を警護する兵士や、無数の様々な装飾品や美術品を手入れする大勢のメイドの面々。

 「毎度出掛ける時に遭遇するヤツらに見つからないよう、今日こそはお忍びで楽しみたい」

 気付かれないよう柱から柱へと忍びのように抜き足差し足で移動するカイン。

 「よし、あと少しで出口だ!」

 「何処かにお出掛けでありますかマスター?」

 「だっ!なっ、こっコルン!?」

 いつの間にか背中に張り付くように現れる白髪の獣人の少女。白くてフワフワな特徴的な耳が左右に揺れている。

 「お出掛けでありますか!コルンも行きたいであります」

 (しまった、よりにもよって一番出会したくないヤツに出会ってしまった)

 カインはすぐさま少女を背中から下ろし、人気の無い角へ少女を誘導する。

 「オホンッ。コルン、僕はこれから大事な調査に向かわなくてはいけないんだ」

 「大事な調査でありますか?」

 「そう大事な調査。この調査は僕一人で行はないといけない極秘任務なんだ」

 「極秘任務!」

 「そう!だからゴメンよ、今回は君を連れて行ってあげれないんだ」

 「極秘任務!コルンも行きたいであります!」

 コルンは瞳を輝かせ、獣人特有の尻尾を犬のようにブンブンと左右に振る。

 「もう一度言うよ、これは僕1人でしか出来ない極秘任務なんだ」

 「極秘任務、コルンも行くであります!」

 「ついでにこの前マスターに買ってもらったフワフワのお菓子食べるであります」

 「買ってもらったじゃなくて買わされたんだよ」

 「しかも50個も…、安かったけど」

 「また買うであります!」

 以前城下へ出掛けた時に、コルンをお供として同行させてしまった事が災いし、毎回見つかると無理矢理同行され、行く先々で食べ物を買わされる。これによって時間を潰され、当初の目的が失われる事になる。

 しかし振り切るのは困難で、獣人特有の並外れた身体能力と視野の広さで、彼女から身を隠すのは至難の技である。彼女は精鋭部隊の1人であり、レベルは720。白狼種という伝説級の種族で、側近であり母であるアリアという女性の1人娘でもある。好奇心旺盛で、まだ7歳でありながら知能は高く、もれなく大食感である。

 (ダメだ、逃げようにも白狼種のスピードは補正がかかってるからすぐに追いつかれてしまう…)

 (どうすれば…)

 いかにステータスがカンストしているカインといえど、種族特有の補正は無視出来ない。特にこの白狼種の補正はかかったスピードは、カインを遥かに上回る。

 「コルン、カイン様が困っています。無理を言ってはいけません」

 「!?ママ」

 瞬きの間に瞬時に視界に現れ、コルンを抱き抱えるように現れたのは、白狼種の長だけが持つ事を許される白銀の髪が特徴的な長身の美しい女性。

 「アリア、助かったよ…」

 「いえカイン様。娘がご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 「ママ!離して!私もフワフワ買いに行くの!」

 「ハァ…まったくこの子は、目を離したとたんにこれだから…」

 ジタバタと暴れるコルンにため息を溢すアリア。

 「申し訳ありません。娘は私が責任持って監視致します」

 「よっ、よろしく頼むよアリア。また今度お礼はするから」

 「あら、それは楽しみにお待ちしております」

 それではとその場を後にしようとしたカインの耳元に、視認感知不可能な速さでアリアは近付くと、そっと耳打ちをする。

 「お礼はカイン様と私の赤ちゃんでも構いませんよ…」

 「!?」

 背筋が凍り付くような言葉にゾッとして振り返ると、すでに2人の姿は無かった。今のはただの空耳だと自分に言い聞かせて、カインは足早に城を後にした。

 

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