第9話 山オーク討伐

クエストを受注し、俺は森の中へと足を踏み入れた。


(あれ……?)


ふと気づく。


「……俺、戦えなくね?」


ヴォルグとの戦いのときは、身体が勝手に動いただけ。あれは偶然の産物だ。次も同じように動ける保証なんてない。


「オークって強いのか……?」


不安を打ち消すように、剣を抜いて素振りしてみる。まあ、振るくらいはできる。ジャンプしてみても、身体は軽いし、動きも悪くない。


(……魔法は?)


そういえば、エルミナが使ってたやつ――たしか「ファイヤ」と「ルクスショット」だったか。


使えるかどうか試してみるか。


右手を前に突き出し、深呼吸してから唱えてみる。


「ファイヤ!」


魔法陣が出現し、手のひらから黒い炎が迸る。それが目の前の木に命中し、ドカンと爆散。


「え?」


炎が黒くて、なんか威力も高い?


(エルミナのは赤だったぞ……?)


「故障か?」


魔法にも故障ってあんのかな…?


剣で触ってみたが、黒炎はすぐに静かに消えた。


「……闇属性の影響か?」


次に試すのは「ルクスショット」。


「ルクスショット!」


再び魔法陣が現れ、今度は黒い光の刃が複数飛び出して、木々をなぎ倒す。


「ふむ」

なるほど、ようやくわかった。

俺の魔法は全部“闇仕様”になるってだな。

だからファイヤもルクスショットも黒くて威力も高い

闇属性だから!


とりあえずこれなら大丈夫だろ!


「よーし、オーク探すか!!」


テンションが上がってきた。もう怖くない。


森を抜けると、小さな洞窟が現れた。


「絶対いるな……」


念のため、洞窟の中に向けて魔法を撃つ。


「ファイヤ!」


黒炎が洞窟を爆裂させた。


(……やりすぎた?)


直後、洞窟から1体の魔物――見たことあるフォルム。イラストで見た、オークだ。


「すまんね、生きるためなのよ! ファイヤ!!」


黒炎を直撃させると、オークは即ダウン。


が、すぐに後ろからワラワラと出てきた。


あんなにいるのか…


「ルクスショット!」


無数の黒刃がオークたちを切り裂く。


1体が突進してきたが、動きは読めた。躱して背後に回り――一閃。


迷ったら負けだからな。腹を括ってやるしかない。同情なんてしてたらこっちが危ないからな。


最後はありったけの魔力を込めて――


「ファイヤ!!」


巨大な黒炎が洞窟を飲み込み、轟音と共に爆発した。


砂煙が晴れた頃には、全員沈黙していた。


「これで……クエストクリア?」


そのとき、左腕の通信端末(エミュレーター)がピピッと反応する。


《戦闘ログ解析中…魔物反応:0 討伐数:12体…》

《クエスト条件を満たしました。クリア報告を行いますか?》


「おお、便利。でも確か……ミレイさんが『素材持ち帰ってくださいね』って言ってたな……」


でも――


「俺、剥ぎ取りなんてできない……」


目の前に横たわるオークたち。申し訳なさと焦りで、しばらく立ち尽くす。


「困ったなー」

今できることはないな。


せっかく倒したに、何にも活かせない。

「ちょっとかわいそうになってきた。命をいただくのにこれじゃ失礼だよな」


しばらく考えてから、今回は埋葬してあげることにした。


「ごめんな。次からは命をいただいたら、必ず剝ぎ取るから」


全員分の埋葬を済ませたころには辺りはすっかり暗くなっていた。

「あー疲れた」

ぼやいたところで、エミュレーターがなる


《リゲルさん!?まだ帰還されてませんが…だ、大丈夫ですか!?》


「お疲れ様です。すみません。ちょうど帰ろうとしてたとこですー」


《何かトラブルですか?まさか負傷!?》


「あ、いえ、オークは倒したんですけど…剥ぎ取りの仕方が分からなくて。

 で仕方なく墓作ってました」


《……えっ?》


「剣で木を切って墓標作ったんで結構時間かかりましたけど」


《はあ…………》

なんか変な反応だな


「とりあえず今終わったところなんで、これから帰りますねー」


《わかりました…お帰りお待ちしてます…》

そう言って通信が切れた。


《クエストログ:討伐成功・素材回収:不可・備考:埋葬処理済 》


さて早く帰ろ。


アルシオンに戻ると、ミレイさんが迎えてくれた。


「お疲れ様です」

「いやー、疲れましたー」


「……あのさっきお墓を作ってたって本当ですか?」


「はい。剥ぎ取りの仕方分からなくて。マナーかなって」


ミレイさんは笑い出した。


「初めて聞きましたよ、埋葬処理済ってログ……」


そこへ、あの重低音が響く。


「リゲル・ワーリック!!」


(うわっ、出た)


グラントが大声で怒鳴りながら歩いてくる。


「初クエスト、よく生きて帰った!……だが!」


「あ、ありがとうございます……え?」


「なぜ埋葬などしている!? 剥ぎ取りは!? 解体は!?」


「……だって、教わってないし……」


怒鳴りつけてくるが、教わってないもん。ここはしっかり言わなくては。


「規定書に記載がある!登録後は速やかに解体訓練を受けるように、と!!」


…え?そうなの?そういえば全部読んでなかった…


「…」


「バカモンが!!」


(これは完全に俺の落ち度だ……)


怒鳴られつつも、どこか優しさもあるその叱責。最後にグラントは一言、


「命があっただけ、感謝しろ。クエストは遊びじゃない」


はい、仰る通りです。


「まあまあ、初回だし!明日からしっかりやってもらえば!」


ミレイさんが割って入ってくれた。


「ふん……しっかり休めよ」


(ミレイさん……ありがとう)


ミレイさんが優しく笑いかけてくれる。


「お疲れ様でした。明日からまた頑張りましょうね」


そう言われてほっとしたところで――


「リゲルさーん!お疲れ様です!」


(あっ、来た)


元気いっぱいの声が響く。レオンだ。


「聞きましたよ!初クエストで魔物を埋葬したって!」


「……お前もか」


「最高です!もう話聞きたくて!これから飲みに行きましょう!」


「いや、今日はもう疲れて……」


「近くにいい店あるんすよ!暇でしょ!?ね、行きましょう!」


腕を引っ張られる。うーん本当に強引だなー。


(……これも付き合いってやつか)


そんなわけで、俺の初クエストの一日は、もうちょっとだけ続くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る