第8話 初クエスト

翌朝、俺は珍しく早く目を覚ました。


窓から差し込む陽の光が眩しい。

普段は気にしないけど、今日はなんだかいい朝だ。


……静かだな。

こんな時は、コーヒーでも飲みながら一服したくなる。


――ピピピッ!


朝の穏やかな空気をぶち壊すように、耳障りな電子音が鳴り響いた。


「うるさいなー……なんだよ、これ。アラームか?」


異世界にも、結局はこういう無粋な現代っぽさがあるらしい。


溜息をつきながらベッドを出て、今日の支度を始める。

初クエストの日だというのに、まったくワクワクしない。


でも働かなきゃ、金は入らない。

金がなきゃ、生きていけない。


それなりに、頑張るか。



ギルド「アルシオン」には、すでにそれなりの人が集まっていた。


とりあえずミレイさんに会って、クエストを受けよう。

そう思って周囲を探すと、少し離れたところに彼女の姿を見つけた。


「朝早いのに、人おお――」


「リゲルさん!おはようございます!!」


背後からドスッと体当たりのような勢いで、やたら元気な声が響いた。

声の主はレオン。……朝からうるさい。



「おはよう。お前、朝から元気すぎだろ……」


「だってクエストですよ!?テンション上がらないと損じゃないですか!昇格だって狙いたいし!」


こいつはほんと、太陽みたいなやつだ。

多分、もう少ししたらギルドのエースになって、周囲を引っ張る存在になるんだろうな。


「俺は“徐々にテンション上げてく派”なんだ。だから自分の受付行けよ」


「了解っす!ところでリゲルさん、何のクエスト受けるんですか?」


「さあ?まだ見てないし、これからミレイさんに聞くつもり」


「クエストはだいたい、討伐・捕獲・採取の三種類ですよ!特殊なのもありますけど!」


さすが新人とは思えない情報量。元気と詳しさが比例してる。



「その中で一番楽なのってどれ?」


「楽っていうなら……採取っすね!でも正直、つまんないっすよ。報酬も安いし!」

そっちの方が良いなー。新人だし少しずつやっていきたい。


「俺は討伐メインです!報酬いいし、戦闘経験積めるし!」

「危ないなー。気が知れんわ……」


すると、レオンが腕を組みながら何か考え始めた。

嫌な予感がする。まさか――


「そうだ!リゲルさん、一緒に討伐行きましょう!!」


「言うと思った!絶対嫌だ!ほらもう行け!」


「えー!記念にいいじゃないっすかー!」


なんの記念だ。

ぶーぶー文句を言いながらも、レオンは素直に自分の受付へと戻っていった。


「……まったく、うるさいやつだ」


ようやく静かになったところで、俺もようやくミレイさんの元へ向かう。



「おはようございまーす」


「リゲルさん、おはようございます。本日から初クエストですね!一緒に頑張りましょう!精一杯サポートします!」


ミレイさんは満面の笑顔で迎えてくれる。

それにしても……ほんと綺麗な人だよな、笑顔も可愛いし。


「ほどほどに頑張りますー。それにしても朝早いのに人多いですね…」

既にこの辺もかなり賑わってる。


「早くしないと良いクエストは売り切れちゃいますからね。」

ミレイさんが当然のように答える。


「クエスト被ることもあるんですか?」

「たまにですけど。受注のタイミングが同じだったりすと、先に受注した方が優先されちゃうんです。」

「なるほどなー」


早いもの勝ちってことか。毎回直接クエスト受けにくるのも面倒だなー

せっかく腕にこんな装置つけてるのに…リモートで受けられないのかな。


「エミュレーターでクエストって受けられないんですか?」

「一応可能ですがそれを使えるのは遠征に出るランサーの方だけですね!」


基本は顔を出して、直接受けないとダメってことか。

どうせ飛ばないようにとかそんな理由だろう…ブラックの考えることなんてお見通しだ。


「それで本日は、どんなクエストをご希望ですか?」


考え事をしていたせいで、一瞬言葉に詰まる。

慌てて、提示されたクエスト一覧に目を通した。


《暴れコブリン討伐》《山オーク討伐》《粘性スライム討伐》《腐れスケルトン討伐》

……討伐ばっかりじゃねーか。


「え、これで全部ですか?」


「はい、現在ご案内できるクエストはこちらになります」


「…………」


「……どうかされました?」


ミレイさんが小首を傾げて尋ねてくる。


「いや、もっと採取クエストとかそういう新人向けのクエストないんですか?これ討伐ばっかりじゃないですか!」

これは当然の主張だ。レオンは討伐と捕獲と採取があるって言ってたぞ!


「あーこれはですね……」

歯切れの悪い言い方が、逆に怪しい。


「実はセカンドマスターが“まずは討伐で腕試しをさせろ”と仰いまして……」


にっこりと苦笑いを浮かべるミレイさん。


「はあ!?なんでですか!こんなの横暴だ!あのおっさんいかれてんのか!?」


「セカンドマスターはきっと、リゲル様の実力を信頼してのご判断かと……」

「ミレイさん……まさかあのおっさんとグルじゃないですよね?」


「私はきちんと、ランクと指示に基づいてクエストをご案内してますよ」


……本当か?グルにしか見えないぞ…

そう睨んでいると、ミレイさんがふっと俺の背後を指さす。

振り返ると――セカンドマスター、グラントの姿が。


丁度いい。ここはガツンと言わないとな。初日からこんな待遇ではいかん。


「――あの!ちょっと言わせてもら――」


「リゲル・ワーリック!!!!」


「はいっ!?」


怒鳴られた反射で、思わず姿勢を正す。


「貴様ァ!ミレイ君の貴重な時間を無駄にするな!!」


「はっ、申し訳ありません!!」


「謝る相手が違う!!」


「はいっ!!」


くるりとミレイさんの方を向き、改めて深々と頭を下げる。


「ミレイさん、申し訳ございませんでした!」


爆笑するミレイさんを見て、つられて俺も笑ってしまう。


……が、すぐに我に返る。


「いやいや違う!おいおっさん!なんで俺だけ討伐ばっかりなんだよ!」


当然の抗議。しかし、グラントの表情は微動だにしない。


「俺の仕事は、部下が最大限の力を発揮できるよう管理することだ。お前はヴォルグを倒したと聞いた。ならば、最低限の戦闘経験がある。問題はない」


……なんでそれ知ってんだ?あれ知ってるの、エルミナだけだぞ……。


「まあ、実際最近は魔物の動きが活発になってまして……採取系のクエストはほとんど出てないんです。元々人気のないクエストでしたし」


ミレイさんが優しくフォローしてくれる。


‥‥うーんまあ仕方ないか。


「わかりましたよ……」


俺が渋々了承すると、グラントは満足そうに去っていった。

覚えてろよ、あのおっさん。



「……で、簡単そうなのってどれですか?」


「そうですね。スライムが一番手軽ですが、討伐数が多くて地味に大変です」


「それより少し強くてもいいから、ヴォルグくらいで少ないのっていません?」


「でしたら、オークの討伐がおすすめです。5体倒せばクリアとなります」


「じゃあ、それで」



こうして俺の初クエストは、モヤモヤと疲労感と一緒に、静かに幕を開けたのだった。



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