第2話 楽園の朝
「変な夢だ。毎日同じ夢を見るなんて」
「そうだね。その声は、どうしてユウジンに助けを求めるんだろうね? 僕たちじゃなくて、ユウジンだけに……」
俺はザイドと夢について話していたが、そのとき、海辺の方から悲鳴が聞こえてきた。
俺は寝床から立ち上がる。この寝床はエナの木の枝の上。太い幹は数メートルあり、辺りを一望できる。──何より、エナが「ここで寝ろ」と言ったから仕方なく。
俺は一瞬、記憶が遡り、思わずフッと笑みが漏れたが、ザイドの視線に気づき、俺は耳が熱くなるのを感じた。
「な、なんだよ」
「ううん、なんでもないよ。……そういえば最近、エナと会話してないね」
「ああ。呼びかけても返ってこない。夢と……何か関係あるのかもな」
俺は背中の金緑の翼を現すと羽ばたかせ、海辺へと舞い上がった。並行するように、ザイドが変身する。その体は
瞬時木々に垂れ下がった幹を伝い、時には地を蹴り俺と同じ先へ急ぐ。
ザイドは人間の時は穏やかなのに、この姿で無口で居られると正直いかついと思う。顔つきが変わるからだと思う。それでも俺たち仲間はザイドのことを知り尽くしているつもりだ。どんな姿に変わっても親友だ。
「血の匂いがするな」
ザイドの言葉に、俺は「ああ」と答えた。
一瞬で海辺に到着し、舞い降りる。
「ユウジン様! ザイド様! またレン様が!」
ノアの方舟に来てからエナの力で変異した若者達がしどろもどろとしている。
俺たちはかつての大樹、母様から力を得て空を飛べたり攻撃する力があるが、彼らにそれはない。ただ適応できる姿に変異しただけ。
──見てすぐにわかった。
「また、か」
俺とザイドは目を合わせた。レンが鼻から血を吹き出し、砂浜に身を預けて呆然と空を仰いでいた。そしてその正面には、アヤが裸で立ち尽くしている。体はずぶ濡れ……海で泳いだな。
「ユウジン、ザイド、ごめんね。またやっちゃった」
アヤはテヘっとポーズを決めるが俺はため息が出た。アヤ、お前はエナと性格が似ていない。まるでわんぱくな少年のように無邪気で、活発でそれでいて……可憐な子だ。でも毎度この騒ぎ……まあ、仕方ないと言えば仕方ない。
アヤの精神年齢はまだ幼い。けれど体だけは女性らしく、見事な仕上がりになっている。だからこそ、余計に手がかかる。
「……まあ、いいさ。でも、頼むから服は着といてくれ」
「えー? でも、海で泳ぐときはいいでしょ? それに、日の光をいっぱい浴びたい! 服って、邪魔くさいんだもん! 私たちは、光を浴びればずっと元気でいられるんだから!」
そう言って、その場でくるくる回り出す。
周囲の女の子たちは──アヤの友達だが、ただただ困惑している。
頼むから素っ裸で回るのはやめてくれ。レンが気絶するのは、これで何度目だ……。
俺はそう思って、思わずうなだれた。
「でも、アヤちゃんの言う通り。今の俺たちに、服は必要ない……よね」
ザイドの言葉に、俺は小さく頷いた。
「ああ……この島にいるせいか、口からの摂取はなくても大丈夫だし、必要ない。それに服を着てると、たしかに邪魔に感じる。でもな……俺は、女性の身体をそんなに見たくないんだ」
──というと嘘になるが、気まずいし、目のやり場に困る。
「とにかく、隠しといてくれ。アヤ、お前はもう少し“恥じらい”ってものを持て!」
「え〜。もぉ……めんどくさーい」
そう言いながらも、アヤはしぶしぶ服に手を伸ばした。──とは言っても、かつての服とは違う。巨大な草花の一部を拝借し、体に巻き付けただけのものだ。俺たちは、それでも“服”と、かつての名残でそう呼んでいる。
「ううっ……」
「レン! 意識が戻ったか。起き上がれそうか?」
俺とザイドはレンの両脇に膝をつき、背中をそっと支える。
「……起き上がれる。大丈夫だ」
そう言いながら、レンの視線が再びアヤに向かう。──しまった。まだ服を着ていない!
次の瞬間、レンは噴水のように鼻血を吹き出し、白目を剥いて再び倒れ込んだ。
俺とザイドは深いため息をついた。
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