絶望の楽園〜海からの侵略者〜

皐月緑葉

第1話 始まりの夢

 暗い。ここはどこなんだ?

 俺は辺りを見渡した。ここはどうやら深海のような水中らしい。どこまでも暗く、数メートル先に何かあっても、誰かがいたとしても分からないかもしれない。

 そう思っていた矢先、目と鼻の先にあぶくを見つけた。あぶくは、暗闇の中を彷徨うように浮かび上がっていく。どこから生まれているんだ……? 


 「助けて」


 微かに聞こえた声に耳を傾ける。か弱く、今にも消えてしまいそうな声だ。


「ユウジン、助けて」


「どうして俺の名前を知っているんだ?」


 不意に出た独り言にも近い答えに返答はない。


「ユウジン、助けて。お願い」


「助けてって。君はどこにいるんだ? 俺は……どうしたらいいんだ? ここはどこなんだ?」

 

 やはり返事はなかった。


 俺は、自分を取り囲む水に抗うよう四方八方を見渡した。でもどこにも声の主は見当たらない。ただ暗闇が広がっている。


「あなたに、会いたい。……ユウジン」


 声は遠のく。俺は必死に目を凝らすが暗闇に変わりはない。その暗闇から突如異なる水の流れが押し寄せ、俺の息を締め上げ始めた。それはあまりに唐突で激しい濁流のよう。


 「ぐっ苦しっ……」


 抵抗しようが、相手は形のない水だ。どうしようもなく、俺は手をばたつかせた。


「ユウジン!」


 再び声が聞こえる。誰だ? さっきの人とは違う……。太く、ハリがあり、それでいて穏やかなこの声を知っている。

 意識が朦朧とする中、光が見えた。俺はできる限り手を伸ばす。声の主はそこから聞こえてくる。


「ユウジン! しっかり」


 誰の声かはまだ分からない思い出せない。でも水圧に負けじと、光と声の先に手を伸ばした。


 ダメだ。届かない。


 ……俺の意識が途絶えた。


「ユウジン! ユウジン!」


 誰だ? 俺を呼ぶのは?

 この声を、俺は知ってる。

 そうか……この声は……。


 「おい! ユウジン大丈夫か?」


 再び俺のまぶたに光が差し、薄く目を開けた。優しく穏やかな日差しが俺を包み込んでいる。頭上の新緑の芽が影を落とし風に揺れ、笑っているかのよう音をたてている。俺は全身で新緑の空気を吸い込んだ。

 ああ、温かい。俺は今自分の寝床にいることに気がつき安堵をもらした。


「ユウジン、大丈夫か?」


 声の先に目を向けるとザイドが俺のことを見下ろしていた。背に太陽が照らされシルエットがまるで神々しい。そう、俺を呼んでいたのは親友、ザイドだ。


 「俺、もしかしてうなされてた?」


 「うん。相当ね。あの夢?」


 「ああ、そうだ。また同じ夢だった」


 俺は体の上半身を起こした。まるで本当に水中にいたかと思うほど、身体中が汗だくだ。

 そう、俺はここ最近、毎日同じ夢にうなされている。そして、俺は胸騒ぎを感じていた。また、何かが起ころうとしている、と。



 


 

 

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