三十輪 矛盾

翌日、カルロッタさんは基地に戻ってきた。


「ただいま戻りました」


「カルロッタさん!」


カルロッタさんが戻ってきた。私は、カルロッタさんの元へと駆け出す。


「おかえりなさい!」


「ありがとうございます、みなさん。みなさんが私の無実を証明してくれたんですよね」


「もちろん。大切な仲間だからね」


カルロッタさんは微笑みながら私の頭を撫でる。

そして、ぐるっと周りを見渡すと、私に尋ねてきた。


「シャーロット、次の作戦の予定とかはすでに決まっていますか?」


「はい!あの……今日、冥沙さんっていう方を切り刻むことになりまして。牧さんって方も拉致することになりました」


カルロッタさんは小さくつぶやく。


「そうですか。理事長と、冥沙さん……」


「お知り合いですか?」


「はい。冥沙さんは私の学校の先輩で、理事長は私がディルタに入った理由の大部分を占めています」


カルロッタさんは何かを考えている。

私は、不安な目でカルロッタさんを見上げていると、しゃがんで私に目線を合わせてくれる。

カルロッタさんの顔がこんなに近くに......!カルロッタさんが、私に耳打ちする。

カルロッタさんの吐息が耳にかかってくすぐったい。


「遠野牧だけをボロボロにして冥沙さんだけ生き残らせる方法を探したいので、お手伝いしてください。あ、ただこのことは内密にお願いします。そうでないと、反逆者として切り刻まれてしまいますからね」


私は、頭がくらくらしてペタンと座り込み、小さな声で言う。


「はい......」


カルロッタさんの破壊力がすごすぎる。

甘い匂いが頭いっぱいに充満して本当に死にそうになる。

まぁ、でも今はそんな事を言っている暇もない。

私は両の頬をバシンと両手で叩いて立ち上がる。

よし。目、覚めた。


「あの!一生懸命尽くさせてもらいますが、どうなるかはわかりません。運命とは残酷なものですから。それを理解してうえで、私と行動を共にしていただきたいです!」


「……そうですね。わかりました。ありがとうございます、シャーロット」


少しすると、ランさんの声が部屋の中に響いた。


「ウィリアム、マリン、シャーロット、カルロッタ、出かける支度を始めろ。作戦、開始だ」


放送の中に、ウィルの名前が入っていなくて、少しさみしくなる。

全員が声に反応し、すぐに眼鏡を置く。支度をし終わった人から靴を持って屋上まで上がり、屋上から外に出て学校向けて近くの家の屋上に飛び移って動く。

市民にバレてしまったら通報されてしまうから。

少しすると、目当ての学校が見えてきた。

私は後ろから全員が付いてきていることを確認してから、二階の理事長室に一番近い家の屋上から勢いをつけて飛び上がる。

理事長室につっこみ、窓を割って中に入る。

私に続いてマリーさん、ウィリアムさんが入ってくる。

私は右足から順に丁寧に着地し、部屋を見渡す。

この理事長室広すぎじゃないですか?

これだけの人数が入っても普通に戦えますよ。

理事長室の中には、驚いた顔をした牧さんと冥沙さん、陽眼さん、それに無表情な仁さんとディルタの皆さんがいる。

……タイミングが、最悪です。

なら、マリーさんには仁さんか陽眼さんをお願いして、なんとかして冥沙さんを殺さないように心がけましょう。

マリーさんは仁さんに近づく。

物置の上にしゃがみ、仁さんに話しかける。


「殴り合い、しよ」


その言葉が合図となり、全員が動き出す。

カルロッタさんとマリンさんは少し遅れてくるらしい。

マリーさんの拳がまっすぐに仁さんに向けて飛んでいく。

私は両手でウィルさんの拳を冥沙さんに当たる寸前で抑える。

「……シャーロット、お前……」


「今回は全面的に協力できないと言ったはずです。覚えていますよね?

もちろん、ディルタから抜けるつもりはございません。ですが、仁さんや、冥沙さんは殺したくないだけですよ。何故か?

簡単です。カルロッタさんのためです。カルロッタさんの笑顔は私の生きがいですから」


私はぷくっとほほを膨らまし、マリーさんを睨む。


「それでも攻撃しようとするなら、マリーさんも今回は敵です!」


「……無理。俺は今高校生だから、少し拳をふるうだけで小さい子なんか大怪我させてしまう」


……確かにそうだ。

なら、どうするべき?

それがわからないことには次には進めない。

私は、カルロッタさんが窓の外にいることを視認した。

これなら、タイミングが良い。


「わかりました」


私は、冥沙さんに向けてナイフを投げた、なるべくゆっくりと。

私が先程発した言葉と矛盾した行動をとり、全員が驚いた顔をする。

と、冥沙さんにナイフが突き刺さる寸前でカルロッタさんがナイフを回収する。

私はにこっと微笑んだ。


「ありがとうございます、カルロッタさん」

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