(八)
自分はスポーツに興味が無いと気づいたのは、スポーツに金を払い終えた後のことだった。高校に入学するまでスポーツを何もやっていなかったことが証拠の一つだ。高校からは何か始めてみようと高校入学時点では思っていた。だから、手続きをしたし、買い物もした。だが、結局それらは無駄になってしまった。何で始めようとしたかというと、スポーツをやらないと青春に付いていけないと思ったからだ。全てが手遅れになった後で、そもそも自分は青春に向いていないということが分かった。
個人的には、小学校卒業まで習っていたピアノの方がやりたい。
しかし、やる気が無くても体育の授業は来るし、興味が無くてもサッカーの試合はしなくてはいけない。ボールがある方に走りながら、これが上手くなって何になるんだと思っていた。こうやって全てをばかにする癖を、自分でも不便に感じているのに、やめられない。一人で勝手に苦しむ私は愚かなものだと自嘲した。
誰かのパスがそれて、ボールがこちらに転がってくる。見回すと、私の周りには誰もいない。自分が追うしかない状況であることが分かった。私は走り出す。すると、ボールの軌道が思ったよりも自分から遠いことに気づいた。慌てて右足を伸ばす。
―あ―
ボールの真上に乗った。刹那、足首がぐにゃりと外側に曲がって地面まで落ち、物理法則に従って私はぶっ倒れる。全員の視線が自分に向いているのを感じる。何人かが小さく笑っている様子がイメージされた。
―恥ずかしい―
私は平気なふりをして笑いながら立とうとした。しかし、できなかった。
右足首の痛みは耐えられないものだった。
―あ、
諦めて座った。これは絶対に捻挫している。もしかしたら骨折かもしれない。
「大丈夫」
と聞かれたので、
「ダメ」
と答えた。
私は笑い顔を作る。それは人を安心させるために日本人が使う顔で、無意識に出たものだった。どうでもいいところで、自分が日本人であることを再認識した。
―神様、なにゆえの罰ですかあ―
心の中でつぶやいた。妙に軽いせりふが浮かんだことに驚く。そして、もしかしたらと考えた。
―もしかしたらさっきの衝撃で暗い気持ちが抜けていったのでは―
すると、こけてよかったのかもしれない。とにかくすっきりした気分だった。不思議な感覚だ。まさか、こんなミニイベントで心が軽くなるとは。
―ありがたいありがたい―
と思った。
―ここはまさに起承転結の「転」なのである―
笑える。面白いじゃないか、人生。
―こうやって感情が動くのが生きることなのだ―
大げさなことを考えると、また、笑える。
―現実という物語は単純であるが、それは悪いことではない―
脳みその中で、ばかげたせりふが次々と生まれていく。猛スピードである。私はそれに興奮していた。しかし、
「保健室行こうか」
と聞こえて、現実に引き戻された。
―あ、右足首が痛い―
それから、医者に足を診てもらったのだが、大したことはなかった。ただの捻挫。骨折じゃないことは、なんとなく分かっていた。
今日は色々な疲れがあったので早く寝ることにした。よく眠れた。
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