第13話 消えたギアたち



 決勝戦前夜。翔太の部屋で、レックスが変なことをしていた。


「財産目録……翔太の漫画本四十二冊……ゲーム機一台……」


「何してんだ?」


「遺産相続の準備」


「縁起でもないこと言うな!」


 翔太がレックスを小突くと、レックスは真顔で振り返った。


「だって、ニュース見たろ?」


 テレビでは一日中、ギア消失事件を報道していた。数字がどんどん増えている。


『本日だけで五千体が消失』

『世界では二万体以上』

『原因は不明、ギア協会も対策なし』


「でも、お前は消えない」


「根拠は?」


「……勘」


「脳筋理論かよ」


 でも、レックスも不安そうだった。


 スマホが鳴った。G-COREの緊急ビデオ通話だ。


「大変! 隣のクラスのユキのギアが!」


 ミナが泣きそうな顔で報告する。画面の向こうで、ルナもしょんぼりしている。


「うちの近所でも三体消えた」


 ショウも深刻な顔だ。


 レイナが何か言おうとした時、画面にノイズが走った。


「ヴァルキリー!?」


 一瞬、ヴァルキリーの姿が透けて見えた。


「大丈夫! まだここにいる!」


 ヴァルキリーが必死に手を振るが、また透ける。


「やばい……」


 タケルは相変わらず無言だが、ガイアをぎゅっと抱きしめていた。


 その夜、翔太は眠れなかった。レックスの寝息を確認しながら、ずっと考えていた。


 朝四時、ついに我慢できなくなった。


「レックス、起きてる?」


「……寝てない」


 二人は屋根に上った。まだ暗い空に、星が瞬いている。


「なあ、覚えてるか? 初めて会った日」


「七月十五日、午後三時二十三分、気温三十二度」


「細かいな!」


「だって、忘れられるわけないだろ」


 レックスは空を見上げた。


「最悪の出会いだったな」


「ああ、最悪だった」


 二人は笑った。


「でも、最高の相棒になった」


「……だな」


 朝日が昇り始めた。新しい一日の始まり。でも、二人とも予感していた。これが最後の朝かもしれないと。


 学校に着くと、異様な光景が広がっていた。


 校門で、ギアを失った生徒たちが呆然と立っている。


「朝起きたら……いなかった……」


 三年生の男子が、空っぽのギア・コアを握りしめていた。


 教室に入ると、いつもの三分の一しか生徒がいない。残りは、ギアを失ったショックで休んだらしい。


 山田先生も憔悴していた。


「みんな、今日は授業を中止します。ギアがいる人は、大切にしてあげてください」


 G-COREのメンバーは、屋上に集まった。


 決勝は夕方。でも、誰も戦う気になれない。


「このまま消えちゃうなら、戦う意味なんて……」


 ミナの言葉に、誰も反論できなかった。


 その時、レックスが立ち上がった。


「俺は戦う」


「レックス?」


「消えるかもしれない。でも、だからこそ戦う」


 他のギアたちも頷いた。


「私も!」ヴァルキリー

「俺も!」ファング

「あたしも!」ルナ

「……」ガイア(無言で拳を上げる)

「もちろん私も」ローズ・ナイト


 翔太は仲間たちを見回した。


「よし、最後まで全力で行こう!」


 でも、午後になって事態は急変した。


 まず、一年生の教室から悲鳴が上がった。授業中に、三体のギアが同時に消えたのだ。


 次に、保健室で手当てを受けていた生徒のギアも消失。


 そして、ついに――


「サクラ! 大変!」


 レイナが血相を変えて屋上に駆け上がってきた。


「ローズ・ナイトが!」


 見ると、ローズ・ナイトの体が点滅している。消えかかっているのだ。


「また……なの……」


 サクラは震えていた。二度目の別れ。


「大丈夫! まだ消えてない!」


 でも、ローズ・ナイトは首を振った。


「サクラ、ありがとう。短い間だったけど、楽しかった」


「やめて! そんなこと言わないで!」


 サクラが必死に抱きしめるが、ローズ・ナイトの体はどんどん薄くなっていく。


 そして――


 光の粒子となって、消えた。


 サクラの手には、一枚の薔薇の花びらだけが残された。


「うそ……」


 全員が凍りついた。目の前で、仲間のギアが消えた。


 次は、誰だ?


 恐怖が全員を包んだ。でも、時間は止まらない。


 決勝戦まで、あと二時間。

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