第12話 すれ違う心



 準決勝当日。控え室のG-COREは、まるで病院の待合室みたいだった。


「ヴァルキリー、ちょっと浮いて」


「無理……羽が重い……」


 ヴァルキリーは床にへたり込んでいる。レイナが必死に羽をマッサージしているが、効果はなさそうだ。


「ファング、雷出してみろよ」


「これが……限界……」


 パチッという静電気程度。ショウが頭を抱えた。


「これじゃ戦えねぇよ!」


 その時、翔太のカバンから声が聞こえた。


「腹減った……」


「さっき激辛カレーパン三個食べただろ!」


「もう消化した……代謝が異常……」


 レックスの食欲が止まらない。昨日から数えて、パン二十個、おにぎり十五個、プリン八個を平らげている。


「翔太の小遣いが……」


 ミナが心配そうに見ている。


 そこへ、ドアが勢いよく開いた。


「よぉ、調子はどうだ?」


 対戦相手の『ダークネス』のリーダーが、ニヤニヤしながら入ってきた。


「見たところ、ボロボロみたいだな」


「関係ねぇ!」


 ショウが立ち上がるが、ファングが足にしがみつく。


「ダメ……動くとお腹すく……」


「お前もか!」


 相手は笑いながら出て行った。


 翔太は拳を握りしめた。


「くそっ……」


「待って」


 サクラが立ち上がった。


「こんな時こそ、冷静にならなきゃ」


「でも、ギアがこんな状態で……」


「だからこそよ」


 サクラはローズ・ナイトを見た。彼女も花びらがしおれかけているが、まだ戦える状態だ。


「作戦を変えましょう。今日は守りに徹する」


「守り?」


「そう。相手に攻めさせて、カウンターを狙う」


 でも、その作戦会議も長くは続かなかった。


「もうやだ! 負けてもいい!」


 ルナが突然泣き出した。


「ミナちゃんが心配してるのに、戦うなんて!」


「ルナ……」


「私だって心配よ!」


 今度はヴァルキリーが泣き出した。


「レイナちゃんのために頑張りたいのに、体が動かないの!」


 ギアたちが次々に泣き出す。まるで幼稚園みたいだ。


「おい、レックス! お前も泣くなよ!」


「泣いてない! 目から水が!」


 レックスも目をこすっている。


 結局、みんなでギアをなだめるのに十分もかかった。


「これじゃ戦えない……」


 レイナがため息をつく。


 でも、時間は待ってくれない。


「G-CORE、入場してください!」


 アナウンスが響いた。


 仕方なくフィールドに出ると、大歓声が上がった。でも、すぐに違和感の声に変わる。


「あれ? G-COREのギア、なんか変じゃない?」

「元気なさそう……」


 審判が心配そうに聞いてきた。


「大丈夫ですか? 棄権しますか?」


「いえ! 戦います!」


 翔太が即答した。


 試合開始のゴングが鳴った。


 案の定、ダークネスは容赦なく攻めてきた。ブラックナイトの剣が、ふらふらのレックスに迫る。


「避けろ!」


「体が……重い……」


 ギリギリでかわすが、バランスを崩して転ぶ。


「レックス!」


 そこへヴァルキリーが氷の壁を作ろうとするが――


「あれ? 氷じゃなくて、かき氷?」


 薄い氷の壁は、一撃で砕け散った。


「ごめんなさい!」


 ヴァルキリーが謝りながら逃げる。


 ファングも電撃を放とうとするが――


「ビリビリじゃなくて、パチパチだ!」


 静電気レベルの攻撃では、相手はくすぐったいだけ。


「こりゃダメだ!」


 ショウが頭を抱えた。


 その時、奇跡が起きた。


 ガイアが敵の攻撃を受けて吹っ飛ばされた時、たまたまルナにぶつかった。


「きゃー!」

「ごめん!」


 二人が絡まって転がった結果、なぜか敵のギア二体も巻き込んで、全員が団子状態に。


「え? これって……」


 偶然の連鎖で、敵チームが自滅していく。


 ブラックナイトが仲間を助けようとして、逆に攻撃を当ててしまう。

 敵の魔法使いが回復魔法を間違えて、G-COREに使ってしまう。

 最後は、敵同士でぶつかって、フィールドの外へ。


「し、勝者、G-CORE!」


 審判も困惑している。


 観客席は爆笑の渦だった。


「なにあれ!」

「コメディショー?」

「でも面白い!」


 控え室に戻ると、みんな呆然としていた。


「勝った……のか?」


「多分……」


 でも、喜べなかった。


「これじゃ、実力じゃない」


 レイナが悔しそうに言う。


「でも勝ちは勝ちだ!」


 ショウは前向きだ。


 レックスが翔太を見上げた。


「なあ、翔太」


「ん?」


「俺たち……このままでいいのか?」


 その問いに、翔太は答えられなかった。


 明日は決勝。相手はゼロ。


 この状態で、勝てるわけがない。

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