第10話 みんなで遊園地!
「遊園地だあああああ!」
朝の駅前。翔太の叫び声で、近所の鳩が一斉に飛び立った。
「うるさい! 朝から叫ぶな!」
レイナが耳を押さえた。
「だって遊園地だぜ! ジェットコースター! お化け屋敷! そして――」
「綿あめ!」
なぜかレックスが興奮していた。
「お前、綿あめ食えるの?」
「知らん! でも食べてみたい!」
「前に宿題食ったくせに」
「あれは紙だ。綿あめは違う」
「どう違うんだよ」
そんなやり取りをしていると、意外な人物が現れた。
「あ、あの……」
黒いパーカーを着たレンが、おずおずと近づいてきた。
「お、レン! 来てくれたんだ!」
翔太が嬉しそうに手を振る。
「誘ってくれたから……その……」
「ツンデレかよ」
ショウがニヤニヤしながら言った。
「ツンデレじゃない! これは闇の力が――」
「はいはい、厨二病厨二病」
サクラがバッサリ切り捨てた。
「み、みんなひどい……」
レンが泣きそうになった。隣でオロチが大笑いしている。
「ギャハハ! もう泣くのか!」
「泣いてない!」
ファンタジーランド遊園地。
入場ゲートをくぐった瞬間、ギアたちの反応が面白かった。
「す、すげぇ……なんだこれ……」
オロチが目を丸くしている。普段の狂暴さはどこへやら。
「あれは何!? くるくる回ってる!」
ヴァルキリーが観覧車を指差して興奮している。
「非効率的な施設だな……でも……」
レックスも実は興味津々だ。
「まず何乗る?」
翔太が聞くと、全員がバラバラな方向を指差した。
「ジェットコースター!」
「メリーゴーランド!」
「お化け屋敷!」
「綿あめ!」
「食い物じゃねぇ!」
結局、多数決でジェットコースターに決定。
『サンダーホーク』 最高時速120キロの絶叫マシン。
「た、高い……」
レンが真っ青になっている。
「大丈夫?」
ミナが心配そうに聞いた。
「だ、大丈夫だ! 闇の力があれば――」
「いや、闇の力関係ないだろ」
ツッコミを入れる翔太。
いざ、乗り込む段階になって、問題が発生した。
「ギアはお一人様一席お取りください」
係員の言葉に、全員が固まった。
「え? ギアも席取るの?」
「最近の規則です。安全のため」
つまり、料金も人数分ということだ。
「金が……」
翔太が青ざめた。
結局、みんなで小銭をかき集めて、なんとか全員分を支払った。
ガチャン、と安全バーが下りる。
「ま、待て! やっぱり降りる!」
オロチが暴れ始めた。最強のギアが、ジェットコースターにビビっている。
「ダサっ」
ファングが珍しく挑発的だ。
「なんだと!? じゃあお前は平気なのか!?」
「当然! データ的に安全だし――」
3秒後。
「ぎゃああああああ! 死ぬ! 死ぬ!」
一番大声で叫んでいたのはファングだった。
急降下! 急旋回! ループ!
「うおおおおお! 最高!」
翔太は両手を上げて叫ぶ。
「きゃあああああ!」
レンは目を瞑って絶叫。涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
「闇の力! 闇の力!」
「関係ねぇだろ!」
レックスは意外と冷静だった。
「ふむ、遠心力と重力の絶妙なバランスが――」
「今それどころじゃねぇ!」
ジェットコースターから降りると、半数が青い顔をしていた。
「も、もう二度と乗らない……」
レンがベンチでぐったりしている。
「だっせー! 闇の使い手が」
「う、うるさい!」
次は、サクラの希望でお化け屋敷へ。
『恐怖の館』 最新技術を使った本格ホラーアトラクション。
入口を見ただけで、ガイアが固まった。
「む、無理無理無理無理!」
「大丈夫だって! 作り物だから!」
タケルが優しく言うが、ガイアは入口の柱にしがみついて離れない。
「タケル君と一緒でも無理!」
「じゃあ、オレが守ってやる」
レンが胸を張った。
「闇の使い手である俺に、恐怖などない!」
1分後。
「ぎゃああああ! 出して! 出してええええ!」
天井から逆さ吊りのゾンビが降りてきた瞬間、レンが出口に向かって全力疾走した。
「待て! 逆方向だ!」
翔太が追いかける。
「いやだああああ! 怖い! ママー!」
「ママって……お前中学生だろ!」
その横で、意外な人物が冷静だった。
「へぇ、この血糊リアル〜」
ルナが壁から出てきた手を観察している。
「あ、この eyeball も良くできてる!」
「eyeball って何!?」
ミナが震え声で聞いた。
「目玉だよ、目玉。ほら、プルンプルンしてる」
「ひいいい!」
結局、一番楽しんだのはルナで、一番泣いたのはレンとガイアだった。
昼食は園内のファミレスで。
「レン、大丈夫?」
レイナが心配そうに聞いた。レンはまだ震えている。
「だ、大丈夫……闇の使い手は……」
「もういいから」
翔太がハンバーガーを差し出した。
「飯食って元気出せ」
「あ、ありがとう……」
レンが涙目でハンバーガーをかじる。
「うまい……」
「だろ? 遊園地の飯は最高だ!」
そこに、レックスが綿あめを持ってきた。
「ついに手に入れた!」
「どこで買ったんだよ」
「あそこの屋台」
レックスが大事そうに綿あめを見つめる。そして、一口。
「……!」
レックスの目が輝いた。
「なんだこれ! 口の中で溶ける! 甘い! 最高だ!」
「そんなに?」
「翔太も食べろ!」
珍しくレックスが分けてくれた。
「お、サンキュー……うめぇ!」
二人で綿あめを分け合っていると、オロチが横から首を伸ばしてきた。
「俺にもよこせ」
「ダメ」
「けち!」
最強のギアが綿あめで拗ねている。
午後は、全員で園内最大のアトラクション『スプラッシュマウンテン』へ。
「これ、絶対濡れるやつじゃん」
サクラが嬉しそうだ。
「私の髪が……」
レイナが心配している。
8人乗りのボートに全員で乗り込む。人間とギアがぎゅうぎゅう詰め。
「狭い!」
「しょうがないだろ!」
「オロチ、尻尾が顔に!」
「悪い悪い」
ゴトゴトとボートが登っていく。
「た、高い……」
レンがまた青ざめている。
「大丈夫、一瞬だから」
ミナが励ます。
頂上に到達。眼下に広がる遊園地の景色。
「きれい……」
一瞬、みんなが見とれた。
次の瞬間――
「うわああああああ!」
急降下!
ザッパアアアアン!
大量の水しぶき! 全員ずぶ濡れ!
「最高おおおお!」
「最悪うううう!」
正反対の感想が飛び交う。
レンは――
「」
白目を剥いて気絶していた。
「レン!? 大丈夫!?」
「水が……口に……ゴボゴボ」
闇の使い手()、溺れかける。
夕方、最後に全員で観覧車に乗ることに。
「やっと落ち着ける……」
レンがぐったりしている。今日一日で、泣いて、叫んで、気絶して。闇の使い手のイメージは完全に崩壊した。
「でも、楽しかっただろ?」
翔太が聞くと、レンは少し考えて――
「……うん」
素直に頷いた。
「すげぇ怖かったけど……楽しかった」
「だろ!」
ゴンドラがゆっくりと上昇していく。
オレンジ色の夕日が、遊園地を美しく照らしていた。
「なあ」
ショウが口を開いた。
「こういうの、ええな」
「うん」
ミナも頷く。
「ギアと一緒に遊べるなんて、考えたこともなかった」
「確かに非効率的だが……」
レックスが翔太を見た。
「悪くない」
「だろ?」
翔太がにっこり笑う。
レンは、みんなの顔を見回した。
朝会ったばかりなのに、もう仲間みたいな雰囲気。
これが、友達――
「レン」
翔太が声をかけた。
「今日から、お前もG-COREの仲間だ」
「え?」
「ダメか?」
レンの目に、涙が浮かんだ。
「う、うわああああん!」
また泣き始めた。
「なんで泣くんだよ!」
「だ、だって……嬉しくて……」
「素直かよ!」
みんなが笑った。レンも泣きながら笑った。
観覧車が頂上に達した時、翔太が叫んだ。
「みんなで手ぇ繋ごうぜ!」
「え?」
「いいから!」
全員で輪になって、手を繋いだ。人間もギアも関係なく。
「せーの!」
「「「G-CORE!」」」
夕日に照らされた観覧車の中で、最高の一日が終わろうとしていた。
でも――
その頃、遊園地の外。
黒いスーツの男が、双眼鏡で観覧車を見つめていた。
「ギア・コアの反応、確認……ふむ、興味深い」
男の胸ポケットから、不気味な紫色の光が漏れていた。
「そろそろ、回収の時期か」
不吉な笑みを浮かべて、男は闇に消えた。
楽しい一日の終わり。
でも、G-COREを狙う影が、確実に近づいていた。
この幸せな時間が、もうすぐ――
次回、衝撃の展開! レックスが突然体調不良に!? ギアにも風邪ってあるの!? そして忍び寄る黒い影!
「次回、『レックスが風邪!?』 ギアって病気になるんだ!」
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