第5話 チーム結成!でも名前が決まらない
金曜日の放課後、保健室に爆弾が投下された。
「全国ギア大会、開催決定!」
佐藤先生が持ってきたポスターに、全員が群がった。
「うおおお! ついに来た!」
翔太は興奮のあまり、レックスを振り回した。
「やめろ! 目が回る!」
「だってよ! 全国大会だぜ! 優勝したらチャンピオンだ!」
「その前に俺を離せ!」
レイナが冷静にポスターを読んでいた。
「小学生部門は……チーム戦?」
「チーム戦!?」
全員が注目した。
「五人から六人でチームを組むのね」
ヴァルキリーが指折り数えた。
「翔太くん、レイナちゃん、ショウくん……三人しかいないわ」
「あと二人足りへんな」
ショウが頭をかいた。
その時、保健室のドアがそーっと開いた。
「あ、あの……」
小さな女の子が顔を覗かせた。眼鏡をかけた真面目そうな四年生。
「失礼します……」
「あ、ミナちゃん」
佐藤先生が優しく迎えた。
「ルナちゃんの調子はどう?」
「それが……」
月野ミナの後ろから、ピンク髪の小さな妖精が飛び出してきた。
「やっほー! みんな何してるの!? 楽しそう!」
ルナ・フェアリーは、くるくる回りながら翔太の頭に着地した。
「わー! 男の子の頭! くさーい!」
「くさくねぇ!」
翔太が振り払おうとするが、ルナは髪の毛を引っ張って遊んでいる。
「ルナ! やめなさい!」
ミナが真っ赤になって注意した。
「えー、だって楽しいんだもん!」
「楽しくても迷惑でしょ!」
その隙に、保健室にまた新たな人物が入ってきた。
大柄な六年生。大地タケルだった。無表情で、近寄りがたい雰囲気を纏っている。
「…………」
タケルは無言で隅っこに座った。まるで空気になろうとしているみたいだ。
「あれ? タケルくんもギア持ってるの?」
ヴァルキリーが声をかけると、タケルの足元から岩のようなギアがひょっこり顔を出した。
「ひぃ! 知らない人がいっぱいだ! こわいよー!」
ガイア・ゴーレムは、見た目に反して超がつくほどの泣き虫だった。タケルの後ろに隠れて震えている。
「大丈夫……」
タケルが小さな声で言うと、ガイアは少しだけ顔を出した。
「ほ、本当? いじめられない?」
「……うん」
翔太は頭を抱えた。見た目最強っぽいのに、中身が真逆じゃねぇか。
「これで五人か!」
ショウが手を叩いた。
「ちょうどチーム組めるやん!」
「ちょっと待て」
レイナが冷静に指摘した。
「いきなりチームって言われても、私たち、ほとんど知らない同士よ」
「それに私、みんなの足を引っ張っちゃうかも……」
ミナが不安そうに俯いた。
「大丈夫大丈夫!」
ルナがミナの頭の上で踊った。
「ミナは心配性すぎ! 楽しければオッケー!」
「楽しいだけじゃ勝てないでしょ……」
「……弱い」
タケルがポツリとつぶやいた。自分のことを言っているようだ。
「弱くねぇよ!」
翔太が力強く言った。
「だってよ、ガイアめっちゃデカいじゃん! 絶対強い!」
「で、でも僕、戦うの怖いし……」
ガイアが泣きそうな顔をした。
「データ的に分析すると」
ファングが口を開いた。
「このメンバーの相性は悪くない。攻撃型、防御型、スピード型、サポート型。バランスは取れている」
「せやろ!」
ショウが調子に乗った。
「これは運命や! みんなでチーム組んで、優勝や!」
「気が早いわね」
レイナがため息をついたが、口元は微かに緩んでいた。
「でも、まあ……悪くはないかも」
「じゃあ決まりだ!」
翔太が拳を突き上げた。
「みんなでチーム組もうぜ!」
ミナとタケルは不安そうだったが、最終的には頷いた。
「よし! じゃあチーム名を――」
「ちょっと待って」
佐藤先生が微笑みながら言った。
「チーム名を決めないと、エントリーできないのよ」
「チーム名かぁ……」
全員が考え込んだ。そして地獄の始まり。
「ドラゴンファイヤー!」
翔太の提案に、全員から非難の嵐。
「センスゼロ」(レイナ)
「ダサすぎ」(ショウ)
「小学二年生みたい」(ミナ)
「……」(タケル、無言の否定)
「じゃあアイスプリンセス!」
今度はレイナの提案。
「は? なんで女限定なんだよ」(翔太)
「僕、プリンセスじゃないし……」(ガイア、半泣き)
「大阪魂!」(ショウ)
「地域限定すぎる」(全員)
「……フラワーガーデン」(タケル、小声)
「「「「……」」」」(全員困惑)
「キラキラ☆ミラクル☆ドリーム!」(ルナ)
「恥ずかしすぎて死ぬ」(レイナ)
一時間経過。ホワイトボードには無数の没案が並んでいた。
「もう無理……」
翔太が机に突っ伏した。
「なんでチーム名ごときでこんなに揉めるんだ……」
「名は体を表すって言うでしょ」
ヴァルキリーが慰めた。
「だからこそ、慎重に決めないと」
その時、レックスが口を開いた。
「ギアの意見は聞かないのか」
「あ」
全員がハッとした。確かに、ギアたちの意見は聞いていなかった。
「じゃあレックスから」
「……ギア・コア」
レックスは短く答えた。
「俺たちの核となる部分の名前だ。シンプルでいい」
「おお、なんかカッコいい」
「でも、もうちょっとアレンジが欲しいわね」
ヴァルキリーが提案した。
「G-COREとかどう? GはギアのG」
「ジーコア……」
ミナが呟いた。
「響きがいいかも」
「データベースで検索……」
ファングが目を光らせた。
「既存のチーム名と重複なし。商標的にも問題なし」
「めっちゃいいやん!」
ショウが飛び上がった。
「G-CORE! カッコええ!」
「……いい」
タケルも小さく頷いた。
「G-COREかぁ」
翔太は何度も口に出してみた。
「うん、いいじゃん! 強そう!」
「じゃあ、全員一致?」
レイナが確認すると、全員が頷いた。
「やったー! G-COREだ!」
ルナが宙を舞いながら叫んだ。
「これで優勝間違いなし!」
「気が早いって」
ミナが苦笑いしたが、嬉しそうだった。
佐藤先生がエントリー用紙を取り出した。
「じゃあ、正式に登録しましょうね」
一人ずつ、名前を書いていく。
天城翔太&ブレイズ・レックス
氷川レイナ&フリーズ・ヴァルキリー
雷堂ショウ&ボルト・ファング
月野ミナ&ルナ・フェアリー
大地タケル&ガイア・ゴーレム
「これで正式にチームね」
佐藤先生がにっこり笑った。
「頑張って、G-CORE!」
「「「「「おう!」」」」」
夕方、みんなで下校する道。
「なあ、明日から特訓しようぜ!」
翔太が提案すると、レイナが現実的な意見を出した。
「でも毎日は無理よ。宿題もあるし」
「週三回はどう?」
ミナの提案に、みんなが賛成した。
「月・水・金な!」
ショウが決めた。
「……守る」
タケルが急に口を開いた。
「みんなを、守る」
「おお、タケル燃えてるな!」
翔太が背中を叩くと、タケルは照れたように俯いた。
でも、ガイアは相変わらず不安そうだった。
「本当に大丈夫かなぁ……強い人たちがいっぱいいるんでしょ?」
「大丈夫だ!」
レックスが断言した。
「我々には、この結束がある」
「レックスさん、カッコいい!」
ヴァルキリーが拍手した。
「でも、結束って言っても、まだ会ったばかりよね」
レイナの指摘はもっともだった。
「だからこそ」
ファングが真面目な顔で言った。
「これから深めていけばいい。データは蓄積されるものだ」
「固いこと言うなぁ」
ショウが笑った。
「要は、仲良くなればええんやろ?」
その夜、翔太は自分の部屋でレックスと話していた。
「なあ、レックス」
「なんだ」
「G-COREって、いい名前だよな」
「……悪くない」
レックスは窓の外を見ながら答えた。
「核心、中心。我々の中心にあるもの」
「それって?」
「さあな」
レックスは振り返った。
「これから見つければいい」
一方、ミナの部屋では――
「ねえねえ、ミナ! 明日みんなで遊園地行こうよ!」
ルナが部屋中を飛び回っていた。
「え、でも練習が……」
「練習も大事だけど、仲良くなるのも大事でしょ!」
「それは、そうだけど……」
ミナは悩んだ。でも、ルナの言うことも一理ある。
「じゃあ、みんなに聞いてみる」
「やったー!」
タケルの部屋では――
「大丈夫かな、僕……」
ガイアが不安そうにつぶやいた。
「みんな強そうだし、僕だけ弱くて……」
「……大丈夫」
タケルは優しくガイアの頭を撫でた。
「一緒に、強くなろう」
「タケルくん……」
ガイアの目に涙が浮かんだ。
「うん! 頑張る! 怖いけど、頑張る!」
レイナの部屋では――
「G-COREね」
レイナは机に向かいながら、つぶやいた。
「悪くない響きだわ」
「でしょう!?」
ヴァルキリーが嬉しそうに飛び跳ねた。
「みんないい人たちだし、きっと素敵なチームになるわ!」
「……そうね」
レイナは小さく微笑んだ。
「楽しみだわ」
ショウの部屋では――
「なあ、ファング」
「なんだ、ショウ」
「東京、来てよかったな」
「……ああ」
ファングも満足そうだった。
「いい仲間に出会えた」
「せやな」
ショウは天井を見上げた。
「G-CORE、絶対強くなるで」
五人と五体。
バラバラな個性、バラバラな性格。
でも、G-COREという名前で一つになった。
全国大会まで、あと一ヶ月。
彼らの挑戦が、今始まった。
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