英雄(ヒーロー)を見守りたいので、僕は親友ポジのメガネくんになる!
ON03
第1話 プロローグ 作為の模擬戦
アルフアル高等騎士学校、第3訓練場。
円形の闘技場内、揃いのマント姿の1年生たちが最初の実技訓練の時間。観客席には今年の新人はどんなものかと、ちらほらと上級生の姿が見える。
周りはざわざわとさわがしい。これから訓練を始めるという所で、何かあったらしく待機を命じて教官は席を外してそろそろ30分くらいになる。
この場では僕しか知らないだろうが、教官は手続きで遅れてきた新入生を迎えに行き、その新入生が迷子になっていて捜索中という状況なのだ。おそらくあと10分くらいで戻ってくるはず……そろそろいいかな?
僕はそろそろと生徒たちの間を抜けてある人物の元に移動する。彼の周りには誰もおらず遠巻きに彼を見てひそひそと、うわさ話をしている。
「あれが、次期ウールか……」
「もうすでに実戦を経験してるって……」
「まるで彫像のように美しい……」
自分に向けて何か言っているのは気がついているだろうに、それを無視して彼は壁にもたれて目をつぶっている。名門貴族にして天才、エルドリス・アグ・グラフィン。
彼に手が届く距離まで近づき、僕が声をかけようとすると……
「何か用か?」
エルドリスはちらりと薄目を開けてこちらを見ている。青白い瞳に黒髪メガネのチビ、僕が映る。彼は長いまつ毛、腰まで届く長い髪。顔だけなら女性かと見間違えてしまうほど整っている。エルドリスの視線に鋭さが増していく。見惚れて声をかけるのが遅れたのがお気に召さなかったらしい。短気だなー知ってるけど。
「はじめまして。あなたは次期ウールメディカと名高い、エルドリス・アグ・グラフィン様でしょうか」
「いかにも」
「僕は……」
「必要ない。お前が誰だろうと私の知ったところではない」
「失礼いたしました。では用件だけ。私と模擬戦をしていただけないでしょうか?」
エルドリスは姿勢を正して、僕を正面から見据える。圧力を感じるね。
「今ならその戯言聞かなかったことにしてやろう……」
「その必要はございません。私もシゼンに連なるレヌウラータの息子。自分の力がどの程度か確かめさせてもらいたいのです」
「シゼンのレルか……」
「教官が戻ってくるまでで構いません。お願いできませんか?」
彼が僕との戦いを受ける理由はない。でも、周りの目がある。ここで断ったら北方守護者、ウールメディカのメンツに関わる。ごめんねずるくて。
「貴様……」
「ん? どうかしましたか?」
すっとぼけさせてもらうね。僕は地味目な天然キャラで通すつもりだから。
「いいだろう。どうせすぐに終わる」
「ありがとうございます!」
大きな声で注目を集め、ついでに大げさにお辞儀して見せる。周りの連中も気になるよね? もっと注目してくれ、それが僕の望みだから。
闘技場中央で向き合う。周りは生徒たちがぐるっとかこみリングの様になっている。
「ちょっとちょっと! 何をしてるのあなたたち!」
少女の声が聞こえる。この声は聞き覚えがある、委員長。いや、まだ、この時は委員長じゃないか。名前は忘れちゃったな。
人垣を掻き別けて前に出てきた少女に声をかける。
「すみません。僕が無理を言ってエルドリス様に模擬戦をお願いしたのです。」
「教官の言葉を忘れたの? 待機よ、待機!」
「ちょうどいいや、スミマセンが開始の合図をしていただけませんか?」
「え? いやだから!」
「ではお願いします! エルドリス様、彼女の合図で始めましょう!」
彼女の言葉を強引に無視する。君は耐えられないでしょ? ほら周りを見てごらん? 早く始めろよって1年だけじゃなく、客席の上級生も君の合図を待ってるよ?誰もかれもがエルドリスの実力を見たがってる。
「うっ……ど、どうなっても知らないわよ!」
だよね。僕は練習用の木刀を軽く振って確かめた後、腕の籠手に装着されている魔法安定術式装備「魔貨」の状態を確認する。僕が今装備している魔貨は、布状にした砂を展開する土属性防御魔術「サンドカーテン」と石柱を生やす土属性防御魔術「ストーンピラー」そして砂でできた刺を生やす土属性攻撃魔術「サンドソーン」この三種類。ま、時間稼ぎはできるかな……
「両者準備は?」
「問題ない」
「いつでも大丈夫です」
未来の委員長が手を上げ下げると同時に叫ぶ。
「はじめ!」
僕はまっすぐに走って距離をつめる。エルドリスは無手でこちらを静かに見つめている。このまま近づけるかと思ったがわずかな魔力の揺らぎを感じ体をのけぞらせる。
「うわっ!」
僕の目の前を極細のアイスニードルが通過していく。魔力操作が繊細で術の発動を感知しづらい。さらに連続して魔術の発動の気配。
「サンドカーテン!」
魔術を発動し砂の壁で追撃のアイスニードルを防ぐ。
「いまのは驚きました。流石です。魔力の揺らぎをほとんど感じませんでした」
「無駄口をたたくな」
そんな声とともにサンドカーテンの内側に発生する白い霧状のボール。これは氷属性制圧魔術「アイスプリズン」このままでは氷漬けにされる!
「まずっ、ストーンピラー!」
急いで魔貨に魔力を通し自身の足元から石柱を高速で生やし、その勢いのまま僕自身を空中に射出する。一拍遅れて白い霧が破裂して僕が立っていた場所が凍り付く。
空中でエルドリスの方を確認する、さっきまでと変わらずこちらをつまらなそうに見ている。少しは楽しんでもらえるよう頑張ってみるかな……
「サンドカーテン!」
サンドカーテンをエルドリスの近くに展開して視界をふさぐ。
「アイスランス」
それを嫌ってエルドリスがサンドカーテンを破壊しようと氷の槍を射出する氷属性攻撃魔法「アイスランス」を発動させる。サンドカーテンはアイスランスに貫かれるが……
「ちっ」
エルドリスの舌打ち。楽しめてもらってるようだね。サンドカーテンは貫かれ壊されたが空中に砂埃となって広がり漂っていて結局視界は塞がったままになっているのだ。魔術発動時に結合力をあえて弱くすることで、壁としては役に立たないけれど、目隠しとして機能させたのだ。
ストーンピラーを連続発動。辺り一帯を石柱だらけにする。僕は魔力量だけは自信あるのだ!
僕は石柱の上に着地。ほかの石柱を足場にして砂埃の中を飛び回る。こっちも相手のことは見えないが僕をなめているエルドリスが動いているとは思わないので、動いていない想定で動く。木刀を振りかぶりエルドリスめがけ振りぬく。
「なるほど、少しやるようだ……」
僕の攻撃はエルドリスの籠手で防がれていた。
「アイスニードル」
ぼくは避けるために後ろに飛びさろうとして、失敗する。僕の足が氷で地面に縫い付けられている。僕が接近していることを読んで罠を張っていたらしい。
「サンドカーテン!」
ぎりぎりで展開して難を逃れる。脱出するため、またストーンピラーで打ち上げるか?そうすれば氷も壊れるだろ……
「ストーン……」
「アイスハンマー」
エルドリスの声がかぶさる。相手の方が早い!
氷属性攻撃魔法「アイスハンマー」氷の塊で相手を叩き潰す攻撃!
横からの衝撃
「ぐはっ!」
僕は吹き飛ばされ自分の作った石柱に叩きつけられる。
「アイスニードル」
「グッ!」
アイスニードルが僕の腕を貫き、石柱に縫い留められる。
「終わりだ。アイスランス」
「まだです!」
自身で作った石柱は壊すことも可能。急いで崩壊させアイスランスを何とか避ける。このままじゃじり貧だし仕掛ける!
さっき上に飛ばした要領で足の下から斜めにストーンピラーを生やしてエルドリスに突撃する。同時に当たりの石柱からサンドソーンを発動させ砂の刺による包囲攻撃を仕掛ける。
「くっ無駄なあがきを」
エルドリスも魔力の揺らぎを感知して、迎撃のアイスランスをサンドソーンに連続発動させる。
それをかいくぐり僕はエルドリスに刀を振る! が、エルドリスが下がってとどかない!
「手間を賭けさせてくたな」
僕に向かって手をかざし、勝利を確信したエルドリスの声が響く。
「アイスラン……っ!」
「サンドソーン!!」
そこで僕は空中に漂わせたままにしていたサンドカーテンを集めてサンドソーンに変換して奇襲をかける!
エルドリスは魔力のゆらぎに気がついたのだろう、詠唱を途中でやめ避けようとするが、避けきれず腕にかすり傷を作る。エルドリスの腕からうっすらと血がにじむ。じっとそれを見つめる。雰囲気が変わったな。
「アイスハンマー」
上から強力な魔力の揺らぎ、絨毯爆撃の様に空から無数の氷の塊が降り注ぐ。これはサンドカーテンでは防げない!
「ストーンピラー!」
石柱を斜めに生やして耐える。ものすごい衝撃と氷の砕ける音。石柱に手をやり魔力を注ぎ込むことで強度を保ち耐える。
「グわっ!」
横からの突然の衝撃、絨毯爆撃の氷で釘付けにしておいて、魔力の揺らぎで気がつかれないように、わざと弱めのアイスハンマーを横から発動させたのだろう。
「よく耐えた、褒めてやろう。アイスハンマー」
氷の塊が無防備な僕に降り注いでくる……
「とりゃあああっ!!」
叫び声とともに誰かが飛び込んできてアイスハンマーを剣で叩き壊す。
「なんだ、貴様は……」
エルドリスは、叫び声の主を睨みつける。
「俺はレオン・アズハート!」
そのちょっと間の抜けた答えにエルドリスはさらに苛立った表情をする。
「どけ」
「どかねー! もう勝負はついてた!! それでもやるっていうなら……俺を倒してからにしてもらおうかっ!!」
「……無粋な奴め。決闘の礼儀も知らん蛮族が!」
苛立ちが限界に達したエルドリスがレオンに向かってアイスランスを高速で連続射出する。
「へっ! そんなので俺がやれるかよっ! てーりゃあああ!」
彼が大きく振りかぶって剣を振るとその剣線をなぞるように炎が伸びアイスランスを破壊する。その光景を見てエルドリスの眉がピクリと動く。
「今のは、魔術ではない……そうか、貴様『魔法使い』か」
「あん? なにいってんだお前?」
「なるほど、噂は本当だったか……」
そういってエルドリスはきびすを返す。
「おい! やるんじゃねえのか!?」
「勝負はついたとお前が言ったのだろう。これ以上付き合っていられるか……」
「え、えーと勝者エルドリス!」
未来の委員長が生真面目に勝敗を宣言する。おつかれさま。巻き込んで悪かったね。
レオンは納得いかなさそうに頭を掻き、こちらに向きなおり僕に手を差し出した。
「おい、大丈夫か?」
「あ……うん」
僕は震える手で彼の手をつかむ、レオンに引っ張られる形で立ち上がる。
「怪我大丈夫か?」
「うん大丈夫。助けてくれてありがとう。」
「ナイスガッツ、あいつ強そうだったのによく食らいついたな」
「い、いや僕なんて全然」
「そんなこたねーよ、いい動きだったぜ。俺はレオン・アズハートお前は?」
「ぼ、僕は……」
僕は心を落ち着けるため両手でメガネのポジションを直す。
屈託のない彼の笑顔を見る。表情が変な風にならないようにとアルカイックスマイルをうかべ、脳内ではオタク丸出しで誰にも聞こえない絶叫を上げる。
(本物だ! 本物のレオン・アズハートだっ! 実際に見ると結構背が高いな~真っ赤な髪のツンツンヘアー、ゲームのまんまだ!)
「アツキ・ミツヒサ。よろしくレオン君」
「おう! よろしくなアツキ!」
周りが先ほどの模擬戦や、乱入者はだれだとざわめく中、僕らは握手を交わした。
ふふっ、今回の目標。レオンの衝撃のクラスデビューはうまくいったかな?
よろしく、マイヒーロー。僕がいるからには、君には何が何でも幸せになってもらうよ!
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