第36話 千景の予感
小結が加わり、ようやく生徒会長による学院の説明が始まろうという所で千景が手を上げながら話しかける。
「初めまして。生徒会副会長の黒澤千景よ。」
「今から学院の説明をするのでしょう?宜しければ私も参加しても良いかしら?」
千景は新音達に挨拶をした後に、チラッと真雪を目を向ける。
普段の千景であれば力になってくれると断言できるが、今の彼女の様子を見るに、まるで新しい玩具を見つけた少女のよう。
今の彼女を力を借りるのは不安で仕方がないが、ここで彼女の申し出を断るのは不自然だと考えた真雪は、苦渋の末、新音達に回答を委ねることにした。
「……皆様が宜しければ、私は問題ございません。」
真雪にそんな葛藤があった事は露知らず、新音は快く了承するのだった。
「初めまして。神和住新音です。」
「オリエンテーションの時、司会をされていた方ですよね。僕は全然問題ありません。」
体育館で見た時は席も遠く、千景の顔をハッキリと認識することは出来なかったのだが、彼女の事は記憶に残っていた。
「覚えてくれていたのね。どうもありがとう。」
覚えてくれていた事を嬉しそうに微笑みながら、真雪側のソファに千景は座る。
「こほん、随分と前置きが長くなってしまいましたが、始めましょうか。」
(確かに、放課後になってから既に30分は経っているわ。何かあったのかしら?)
長くなった前置きの内容に興味が惹かれた千景であったが、ここは口を挟むことはせずに静観することにした。
「大まかな学院の説明は、入学前や今日のオリエンテーションの際に教わっていると思いますので、私なりに何を伝えるべきか考えてまいりました。」
「やはり、性別の違いによる影響がどのように学院生活に及ぶかが大事になってくると思います。」
「まずはーーー」
真雪は、学院の設備の影響から話し始めた。
分かりやすい部分で言えば、トイレや更衣室といった設備が挙げられた。
当学院に男子生徒が存在したのは遥か昔の話であり、男子生徒が入学しなくなってからの間に段々と男子専用の設備は形を変えていったのである。
新音が編入するにあたって、一部のフロアのトイレや更衣室が新音用に割り当てられたのだが、女子生徒用の設備と同じ数を用意出来るはずもなく、不自由な部分も多いのが現実だった。
そういった歴史の背景やどの場所を使えば利便性が高いのか等、まだ新音が想定出来ていなかった部分も含めて説明を行った。
「勉強になりました。トイレとか既に何度か利用しているので知っているつもりでしたが、こちらのフィデリス館やその他の施設ではまだ把握しきれていなかったので助かります。」
新音は、まだ把握出来ていなかった部分を補完する形で説明をしてくれた真雪に感謝を述べる。
「いえ、お役に立ったのであれば幸いです。」
(むー。兄さまには私の方から事前に説明していたつもりでしたが、生徒会長の説明の方が兄さまの事をより考慮されておりました……。)
(本来であれば、家族である私が誰よりも兄さまの理解者になれるはずなのです。これはもっと精進しなくてはなりませんね。)
真雪の説明の出来の良さに嫉妬しつつも、改めて兄に置かれている状況を整理する必要があると考え直した小結であった。
「なるほど。そのような視点で考える必要があるのね。設備だけでそこまで違いがあるのであれば、生活面や授業とかでも色々と考える必要がありそうね。」
「ええ。編入にあたって既に先生方が色々と手を尽くして下さっているのですが、まだ対応しきれていないのが現状です。」
「ですので、私の方でも何か出来ないかと考えてはいるのですが、学年の違いもあってサポートの出来る範囲が限られているのが痛いですね。」
「そうねぇ。妹の小結ちゃんも1学年だし、頼れる同級生がいるに越したことはないわよね。」
「うぅ。」
千景と真雪の会話が刺さる小結。
そんな様子に居た堪れなくなった新音は、少しでも心配を掛けまいと明るく振る舞う。
「あの、同じクラスの芦屋さんが隣の席で声を掛けてくれてますし、それに一ノ瀬さんを紹介してくれたりもしているので。」
「へー。花恋ちゃんが隣の席なんだ。それはそれは。」
(学院随一のご令嬢がお隣の席だなんて、まるで都合の良い小説のようね。)
千景の合いの手と表情から何か邪な考えを感じ取った真雪が注意する。
「まったく、千景は何を考えているんですか。ですが、彼女達と知り合えたのは僥倖でしたね。」
「一ノ瀬さんは去年に委員長として真面目に活動されておりましたし、適任かもしれません。」
新音の取り巻く状況を知り、益々興味が沸く千景。
(そういえば、神和住くんは2年生なのよね。となると18歳まで後2年もない事になる訳だけれど、既に"あれ"は決まっているのかしら。)
(もしも、決まっていないのだとすれば、当学院の生徒達は大チャンスと言えるのだけれど。)
(今どきは生まれた時から決められている事も多いと聞いたことがある訳だし、この年齢まで決まっていないだなんて有り得ないわよね…?)
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